「宍戸さん、すみません。お先に失礼します」
「おう!また明日な」
「はい!!」
ある日の部活、俺のダブルスペアである長太郎は家の用事とかで帰って行った。
その用事とやらが何なのかは知らねえが、お世話になってる人が困ってるって事で助ける為の用事らしい。
律儀な長太郎のやりそうな事だ。
なんて簡単に構えてたんだが、まさかそれが長太郎人生最大の不幸を呼ぶ事になるなんて、誰が想像しただろう。
長太郎…俺は同情するぜ。
長太郎が部活を休んだ翌日。
欠席の理由であった用事とやらについて笑顔で話す長太郎。
近所に住む所謂幼馴染の女の両親が海外に長期滞在する為、その間その女を鳳家で預かる事になったらしい。
まあ、規模の小さい引っ越しみたいなもんだろ。
その女を『姉さん』と呼んで慕う長太郎。
きっとその姉さんとやらに大層可愛がられているんだろう。
年は2つ上らしい。
って事は俺の1つ上か。
「宍戸さん!家に家族が増えるっていいですね!」
「良かったな、長太郎」
「はい!凄く優しい人なんです!」
「じゃあしっかり両親の留守を預かんねえとな」
「はい!姉さんは俺が守ります!!宍戸さんにも会わせたいなぁ」
「俺は別にいい!年上の女なんて相手に出来なそうだぜ」
「そんな事ないですよ!気さくな人なので!ああ、そうだ!」
「うん?」
「結構前に雨が降ったじゃないですか」
「ああ、あれ以来降ってないから覚えてるぜ。お前確か傘忘れた日だよな?」
「はい!その日も俺の為にわざわざ傘を持って来てくれたんですよ!」
「へぇ、マジで可愛がられてんな……ん?」
「?どうかしましたか?」
「……長太郎」
「はい」
「…その姉さん、名前なんて言うんだ?」
「名前です。名前姉さん」
「………おい、それって…」
「あかーーーーん!!!!」
「「うぉあ!!!」」
「なんだよ忍足、居たのかよ」
「忍足さん、びっくりさせないで下さいよ」
「あかんあかんあかん!!鳳!やばいでそれは!!!」
「な、なんですか?」
「名前ちゃん言うんか、近所の姉ちゃん」
「はい、そうですけど」
「…レモンや」
「「は?」」
「そらきっと、レモンちゃんやーーーっ!!!」
「「!?」」
固まる長太郎と俺。
…マジかよ。
話聞いててなんとなく嫌な予感はしてたんだが。
まさか跡部が探してるっていう『レモンの女』が、長太郎の幼馴染の姉さんだったとは!
みるみる青ざめていく長太郎に掛ける言葉が見つからない。
忍足は白目だ、アイツ最近白目なり過ぎだろ。
「宍戸さん、忍足さん…この事は…」
「ああ、分かっとるで!ここだけの話にしといたる!レモンちゃんが見つからない方が俺にとっても都合がええ!」
「た、助かります」
「なんで忍足にとって都合がいいんだよ」
「考えてみい!ただでさえ毎日俺んとこ来てその子の話してくんやで!ついに見つけ出したとなったら…」
「…いい相談相手兼協力者に抜擢されんだろうな」
「そういう事や!!」
「ほう。そういう事か、そりゃいい話を聞いたな」
「ほんまやで!…ん?」
「「「!?!?!?」」」
「あーん?」
「「「跡部(さん)!!!」」」
ああ、俺ら激ダサ。
跡部の笑顔こええよ。
ガチャ
「鍵!!鍵閉めよった!」
「あ、跡部さん!これは!!」
「激ヤバ…」
長太郎。
姉さん守ってやれよ。
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