年上に恋した跡部のお話 | ナノ

雨を待つ男



跡部さんがおかしくなったのは確かあの雨の日から。
突然レモンがどうとか叫び出したり、校内放送で妙な召集を掛けたり。
謎の行動ばかり起こしてる。
忍足さんによれば、跡部さんは『恋』をしているのだとか。
信じられないけど、最近の不可解な行動を見て取れば頷ける。
事件があったというあの雨の日から一度も雨は降っていない。
跡部さんは雨が降るのを待っているらしい。
そういえば部活中もたまに空を見上げたり、気温を確認したりしてる所を何度か目にした。
『恋』か…
あの跡部さんを惚れさせた女の子、いったいどんな子なんだろう。
血眼になって探している跡部さんは怖いけど、なんだかあまりにも可哀想なので俺に出来る事なら協力したいと思うようになっていた。
宍戸さんに言ったら変な目で見られた。
『関わるの止めとけよ。きっといい事ないぜ?』
…ごもっともかもしれない。
だけどこれ以上跡部さんがおかしくなる前になんとかしたいというのも事実。
一番参っているのは忍足さんだろう。
クラスも違うのにしょっちゅう訪れては『レモンの彼女』の話をするとか。

ある晴れた日、颯爽と部室に現れた跡部さんは傘を持っていた。
「跡部さん、傘なんて持って来てどうしたんですか?」
「あーん?今日は夕立が来るって予報だぜ?」
「え、そうなんですか?うわ、俺傘持って来てないです…って跡部さん、なんで2本持ってるんです?」
「ああ、こっちは俺様の。こっちは女のだ」
「…女。あ、あの飴の女性ですか」
「ああ、よく分かったな鳳。俺様は仮を作るなんて御免だからな、コイツはとっとと返さなきゃならねえ」
「はぁ、そうなんですか」
もし雨が降ったとして、その女性がまた現れると決まったわけじゃないのに、彼のこの自信はなんなんだろうか。
そんな事を考えながら苦笑いをして部活の準備をしていると、ふと視界に入った白い物。
ん?
あ、あれは!!
跡部さんのロッカーの中には『てるてる坊主』があった。
しかも!
逆さま!!!
さすが努力の自信家!
やはり雨を降らせようと言う努力は怠ってなかった!!
跡部さん、やっぱり貴方は凄いです、色んな意味で!
てるてる坊主を逆さまにして雨が降るように祈るなんて跡部さんが知らなそうなお呪いだけど、いったい誰に聞いたんだろう。
「あかん…俺や」
俺の後ろで白目の忍足さんが呻いた。
「お、忍足さん」
「俺や、てるてる坊主逆さにしたら雨降るかもしれへんでー言うたの、俺や」
「あ、あはは」
「跡部のやつ、最近悉くなんでも信じよる、あかんわ」
「と、とりあえずあれはまぁいいんじゃないですか?」
「いや、あかんやろ」
「え?」
「ロッカーん中よう見てみぃ」
「はぁ…!!!!!」
「…あかんやろ?」
忍足さんに言われてもう一度跡部さんのロッカーを見て固まった。
逆さてるてるが!
大量!!!!
白いからジャージの白部分だと思っていたのに!
ハンガーに逆さてるてるが!
うじゃうじゃ居る!!
「鳳、白目なっとるで」
「忍足さんが白目になる気持ちが今分かりました」
「やろ?どんだけ雨降らせたいねん」

跡部さんの執念が恐ろしいと思った、ある晴れた日の部活。








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