俺様を侮辱したあの女の捜索は難航していた。
名前という名で、身長が女にしては高めの恐らく165前後の細身、ダークブラウンの瞳と同色の肩までの髪。
その程度の情報しかねえ。
何度か出会った場所にも足を運んだが遭遇する事は無かった。
他にも何か情報はねえのか。
生徒会室で1人頭を抱えていると、忍足がやって来た。
「おい跡部」
「あーん?」
「まだレモンちゃんの事探しとるんか」
「うるせえ。いくら俺様に惚れてるからとは言え、俺様を侮辱した罪は重い。意地でも見つけ出してやる」
「おお、怖!」
「お前は何しに来た」
「お、そうや!こないだな、ストテニんとこで不二弟に会ってな」
「弟?」
「不二周助の弟や。で、ルドルフの観月がうちと練習試合させろて煩いとか言うてたわ。無謀なやっちゃな」
「…」
「なんや跡部、黙りこくってどないしたん?」
「弟、弟だ!」
「は?」
「フッ、ファーッハッハッハ!!」
「なんやねん」
「おい忍足、でかしたぞ!」
「だから意味分からへんて」
「弟!あの女、弟が居ると言っていた!」
「ああ、またレモンちゃんの話か」
「可愛い弟に傘を持って行くと!そう言ってやがったぜ!」
「それがどないしたんや?」
「あの女が向かって行ったのは俺様が通って来た道、あの先にある学校はただ1つ!我が氷帝学園だ!!」
「へえ」
「それはつまり!あの女の弟はこの氷帝に居るって事じゃねーの!!」
「…そうとも限らんと思うけどな」
「バカか忍足!これはあの女が照れ隠しに俺様に与えたヒントだ!早く見付けて欲しいと見た!!」
「完全に勘違いやろそれ」
「ファーッハッハッハ!!」
「何処行くねん!練習試合の話は?」
「あーん?何の話だ?俺は急用が出来た、先行くぜ」
「人の話聞いてへんやん!もう『弟』しか聞き取ってへんやん!!」
ピンポンパンポン
『全校男子生徒に告ぐ!「名前」という名の姉が居る者は大至急生徒会室に来い!繰り返す!全校男子生徒に…』
「アホやアホがおる」
「なんだ忍足、まだ居やがったのか」
「職権の乱用やで」
「あーん?これは捜査だ」
「あんな事言うて来るヤツなんか…」
コンコン
「おるんかーい!!」
「ふんっ、入れ」
「「「失礼します」」」
「そないおるんかーい!!」
「お前ら、放送を聞いて来た者か?」
「「「は、はい!」」」
「よし。お前らの姉について、洗いざらい吐いて貰うぜ」
「「「!?」」」
「うあー、めっちゃ萎縮しとるやん。かわいそ」
「何故だ!!忍足!!」
「俺に言うなや!!」
どういう事だ?
あの女と共通する物が何も無いだと?
まだ来てねえヤツが居るのか?それは無いな、この氷帝で俺様に逆らうバカはいねえ!
これだけ探しても見つからねえとは、あの女やるじゃねーの!!
「おい跡部。その名前ちゃんて子、ほんまに弟おるんか?」
「あーん?どういう事だ」
「弟や言うといて、実は彼氏かもしれへんで?それこそ照れ隠しにな」
ピシリ
「お、跡部が固まった」
「なっなんだとてめえ!!レモンはどう説明するつもりだ!レモンだぞレモン!!…はーん?俺様を僻んでやがるな!適当な事言いやがって!」
「あかん、もう何言うても無理や」
ふらふらと生徒会室を後にする忍足の後ろ姿を一蹴し、未だ脳裏に焼き付いているあの女を必ず見つけ出してやると奮起した。
「必ず探し出して、俺様に相応しい女が見極めてやる!待ってろよ!レモン女!!ファーッハッハッハ!!」
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