年上に恋した跡部のお話 | ナノ

誰やねん



「おい、忍足。犬って言われた事あるか?」
「…は?」
「犬だよ犬!血統書付きのな!」
「いや、全く意味が分からんのやけど」
「俺も意味分かんねえよ」
「なんやねん!!」

跡部がおかしい。
休み時間にわざわざ俺のクラスまで来て何の用かと思えばこれや。
そうかと思えば何やら上の空。
妙な問い掛けをした後は何をするでも無く俺の前の席に腰掛けとる。
俺は読み掛けの恋愛小説を机に伏せて跡部を観察してみる事にした。

「チッ」
「…はぁ」
「なんでこの俺が」

うわ、あの跡部が百面相や。
独り言まで言うてる。
眉間に皺を寄せたり、溜め息をついたり…
だいたい『犬って言われた事あるか』てなんや!
そんなん普通に生きてて人から言われる事なんか滅多に無いと思うで。
愛嬌のある可愛いタイプのヤツが言われるんなら分かる。
テニス部で言えば鳳みたいなヤツやな、宍戸限定やけど。
しかし…あの、あの跡部やで?
誰や!コイツにそんな事言うて来る強者は!
俺が1人悶々と考えていると突然跡部が立ち上がった。

「なんや跡部、どないしたん?」
「あーん?」
「何悩んどるんや?」
「悩む?俺が?」
「そらどう見たって悩んどるやろ」
「馬鹿な事言ってんじゃねえよ。この俺があんなわけわかんねえ女の事で悩んでたまるか」
「お、女ぁ?」
「くそ、俺様を誰だと思ってやがる」
「…」
「だいたい紋所って何だよ、そんなもん持ってねえぞ」
「ぶっ!!…も、紋所て」
「あ?」
「な、なんでもあらへん」
「ちっ…帰る」
「えーーーっ、何しに来たん!!」

結局何が言いたかったんや?
つうか紋所言うたら
『このお方を何方と心得る』
『この紋所が目に入らぬか』
の紋所やろ?
『俺様を誰だと思ってやがる』
…だいぶニュアンスちゃうねんけど。
その相手、めっちゃ変な感性持っとるんちゃう?
て、見ても無いのに通じる俺もどうかと思うわー。

女の子言うてたな。
あの跡部に失礼な事言うくらいや、まず氷帝の子ぉやないやろ?
他校?いや、その辺で遭遇したなら氷帝の跡部を知らんヤツなんか居らんやろ。
年上?年下?
なんにしても女の子の事で悩む跡部なんか見た事あらへん。
どんな別嬪さんに言い寄られたって足蹴にしとるんやから。

まさか、

この症状、間違いなくあれやんな。
…恋煩い。

俺の得意分野や。
初心者向けの恋愛小説でも貸したろかな。






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