年上に恋した跡部のお話 | ナノ

雨と飴



おい、これはどういう事だ。
何故この俺様がこんな目に遭ってる?

時刻は午後7時。
1人生徒会の仕事を終え一歩外に出れば、所謂バケツを引っくり返したような雨。
晴れの予報だった今日は傘なんざ持って来ているはずもなく。
こんな日に限って迎えは来ねえ。
樺地も私用で既に帰った。
だが、ここで雨が止むのを待つ時間も勿体ねえ。

「チッ、走って帰るか」

制服のジャケットを頭に掛けて飛び出した。
雨が止む様子は無い。
暫く走り続けたが、既に閉店した商店街の店の軒下で立ち止まった。
気休めに被ったジャケットはびしょ濡れだ。
髪だって濡れて顔に水が滴っている。
舌打ちをかまして頭を振って髪の水分を飛ばしていると

「…犬みたい」
「…あーん?」
「あーん、だって!ワンじゃないんだ」
「…なんだてめえ」

傘を差した女が立っていた。
背は女にしては高い。
瞳の色と同じダークブラウンの髪を肩で切り揃え、少し目に掛かる前髪。
真顔でこっちを見ている。
否、そんな事よりもさっきの言葉だ。

「…犬、だと?」
「そう、犬。髪綺麗だし、血統書付きかな」
「あーん!?てめえ、馬鹿にしてんのか!」
「何怒ってんの?」
「てめえがふざけた事言うからだろうが!」
「短気、俺様、口悪い、…それ氷帝の制服だね。ホントに氷帝生?」
「あーん!?俺様を誰だと思ってやがる!!」
「紋所でもあんの?」
「は?」
「あはは、アホ面」

何だコイツは。
氷帝生って知ってて俺の事知らねえのか?
コイツも氷帝生か?
いや、見た事ねえな。

「ワンちゃん、傘持ってないの?」
「ワ!?てめえいい加減に!」
「はい」
「は?」
「だから、傘」
「…いいのか?」
「うん。これから可愛い弟のお迎えなんだけど、別に1本あればいいし」

そう言って女は俺に傘を押し付けて来た。
鮮やかな水色の傘。
急に近付いて来た事に驚いていると

「よーしよし、いい子」
「なっ!?」
「はい、あーん」
「んぐっ」

頭を撫でられた挙句、
…飴を口に突っ込まれた。
すげえすっぺえ!!…じゃねえ!!

「てっ、てめえ!」
「吠えない吠えない!いい子にお家に帰るんだよ〜」
「待てっ!お前名前は!何処の中学だ!」
「…あーん?」
「は?」
「キミより年上、名前は名前。じゃあね、ボク」
「なっ!!」
「もう会う事も無いだろうけど。あ、傘は要らないから」

雨の中颯爽と去っていく女。
呆けていた俺は飴を口から零しそうになった。
しょうがねえから最後まで舐めてやる、ありがたく思えよ。
ああ、すっぺえな。

名前と言っていたか。
俺様にあんな態度取りやがって…
いい度胸じゃねーの、あーん?

近いうちに見つけ出してやる。
あんな女別に興味なんかねえがな。
俺様を侮辱した事を後悔させてやろうってだけだ。
あーん?別に気になってねえ!!







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