いるから。 | ナノ

07

ふわふわ、ふわふわ。
なんだかいい夢を見ている気がする。
何なのかは分からないけどとても心地好い。
すごく近くに温もりを感じる。
温かい。
まるで何かに包まれているかのような、不思議な感覚。
そこから、ゆっくりゆっくり覚醒する。
「ん、あれ…今何時だー」
ぼんやりとした意識の中カーテンの隙間から見た外はまだ暗い。
ソファーである事をすっかり忘れて、目覚まし時計を探しさ迷う手。
ぐっと伸ばした瞬間…
ズルズルッ
「えっ!?げっ!」
ドッサァッ!!
「ちょ!!いったぁあああ!!」
「うっ!!」
ソファーから転げ落ちた。左半身強打、超痛い!
ん?
今、なんか、自分以外の声が…
「いってぇ!!くそ!まだまだこれから、だ、…は?」
「は?」
目が、合った。
綺麗な、アイスブルーの瞳。
瞬き数回。
お互い横向きで寝転がった状態で数秒見つめ合う。
「〜〜〜っ!?」
「おい!ま、待て!!」
「っぎゃ、むぐぐ!!」
全身全霊で絶叫を上げようとした瞬間、目の前の相手に口を思いっきり抑えられた。
「っ落ち着け!でけぇ声出すんじゃねぇ!とりあえず落ち着け!」
「む、むぐ!んむんむ!」
抱き込むように腰を引かれて口を抑え込まれた。
目の前の状況に動転して目がチカチカするが、相手のあまりの形相にコクコクとひたすら頷く。
だって!だって!!
今、目の前に、私の目の前に存在するのは…
私の大好きな某テニス漫画の登場人物、
跡部景吾。
で、間違っていないはず。
と言うのも…
「むぐっ!ぶっは!ちょ、さ、叫ばないから!ちょっと!ぶっ!あはっ!あっははは!」
「あーん?何がおかしい!!」
「だ、だって!くくくっ!」
…坊主だった。
本来なら、紙の上に存在する跡部景吾が何故今私の目の前に居るのか、そこに一番驚くべきなのだが、それどころでは無かった。
35巻の裏表紙でしか拝めなかった、坊主の跡部が居るのだ。
あまりの美形坊主に笑い出すしか無かったのである。
刈りたてなのかデコボコしている。
「…てめぇ」
「ご、ごめ!今!今落ち着くから、ぷっ!」

数分後、ようやく少し落ち着いた私は跡部(仮)と向き合っていた。
これはもしかしなくてもあの所謂『トリップ』、しかも『逆トリップ』というヤツではなかろうか。
色々確認したい事はあるけどとりあえず、
「えーと、もう1回名前を…」
「氷帝の跡部景吾だ。何度も言わせるんじゃねえ」
「ですよねー」
「おい。てめえに聞きたい事が山程ある」
「分かってる。だけどその前に1つ。…大事な試合、終わったの?」
「!?」
一瞬目を見開いた跡部。
そう。彼の姿は…
ガタガタの坊主頭、氷帝のユニフォームに身を包み、手には黒のリストバンド、今すぐ脱いでいただきたいがシューズも履いている。
ここから推測するに…全国大会青学戦、リョーマとのS1の試合後。
少し目を伏せて彼は答えた。
「…ああ。終わった、んだろうな。俺は…負けた。」
やっぱり。
私に言えるのはこれだけ。
「…そっか。…跡部、お疲れ様」

(泣きそうな程に歪められた美しい顔を
今は見なかった事にする)
(これが、私と彼の出会い)

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