いるから。 | ナノ

03

昨日の出来事は夢じゃなかったらしい。
朝起きて確認したけど、やっぱりボールは私のではなかった。
なんで?どうして?昨日はずっと頭を悩ませていたけど、考えても無駄という結論に辿り着き、今に至る。
こんな怪奇現象、私に解決出来るはずがないのだ。忘れようと心に決めた!
のだが、
早くもその心はバキバキに折れて砕け散ったのである。

予約していたテニススクールに予定通り参加した。
先生は私より若そうだな、まぁそんな事はどうでもいい。
事件が起きた。
カランカランッ
「ちょ!苗字さん!今の!狙ってないよね!?俺の手目掛けて来たけど!しょ、初心者だよね!?」
「………は、い。」
吹っ飛んだラケットもそのままに、先生大分テンパってるけど私それどころじゃない、唖然。今の…今のは見た事ある!
間違いなく…
『破滅への輪舞曲だ!』
遠くであの有名な技の名が響いた。
そして、先生に当たったボールは私目掛けて緩く跳ね返り…
そのボールを見た瞬間、戦慄した。
「まただ。またボールが変わってる」
なんの因果か、昨日と同じように使い古されたくすんだ黄色いテニスボールが足元に転がった。
恐る恐る拾い上げる。
やっぱり、温かい。
誰かがずっと握っていたかのような、確かな熱を感じた。
気分が悪くなったと伝えてスクールは早めに切り上げた。
どう頑張っても、とても練習に集中出来るような状態ではない。
脱兎のごとくスクールを飛び出し、脇目も振らずに帰宅する。

「ただいまー」
部屋に入るなり、ボールを片手にソファーに突っ伏した。
「はぁ…なんなの?ホントに。せっかく忘れようと思ってたのに…」
昨日のボールと先程のボールを並べてみたが、特に何かが分かる訳でもない。ただ、同じメーカーのもので同じように使い古されているというだけ。
「破滅への…輪舞曲、か。」
先生に普通に緩く打ち返したはずのボールが、まるであの「彼」が放つ技のように見えた事を思い出してみる。
ラケットやシューズを同じにしただけでこんな事が出来るのだとしたら、誰もがこぞって同じ事をやるだろう。
何かがおかしいのだ。
分からない何かが自分の身に起こっている。
それだけは確か。
誰に相談出来る訳でもなく、モヤモヤした日々を送る事になる。

(夢か幻か)
(脳裏に思い描くは、
自分を見下ろすアイスブルーの瞳)

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