いるから。 | ナノ

27

ファッションショーは無事終了したらしい。
と言うのも、私たちは途中で会場を抜け出してきたからだ。
最後まで居てくれとは言われなくて良かった。

「お疲れ様」
「ああ。すげえ疲れた」
「俺様の美貌に酔いな!とかやると思ってたのに」
「ふんっ。お前が酔ってたじゃねえか。見惚れてたんだろ?」
「うん」
「!そこは突っ込んでこいよ」
「だって…ホントにかっこ良かった」
「…」
「照れ…「てねえ!!」…ふふ。あっそ」
「それより、ショッピングだ」
「ええ!今から?もう帰ろうよ」
「うるせえ、行くぞ」
「えーーー」
跡部に腕を引かれてやって来たのは小ぢんまりとしたアクセサリーのお店だった。
主に天然石を取り扱っているらしい。
お客は私たちの他に数組のカップル…なんだか恥ずかしくて居心地が悪い。
「跡部?何か買うの?」
「ああ。お前は適当にその辺見てろ」
「…あっそ」
更に居心地が悪くなったじゃないか。
どのカップルも2人仲良く店内を見ている。
別に私たちカップルでも無いけどね。
楽しそうだなとか…全然思ってないんだから!
チラリと跡部の方を見ると、初老の男性と何か話している所だった。
見た感じ、店長さんだろうか?
男性は嬉しそうに微笑みながらこちらに視線を向け、私と目が合うと更に笑みを深めた。
一応、首を傾げつつも微笑んでみる。
跡部は知らん振りだ、意味が分からない。

暫く待っていたら、跡部が店長さんにお辞儀をして戻ってきた。
小さな紙袋を提げているが、何か買ったのだろうか?
また腕を引かれてお店を出た。
ドアが閉まる瞬間店長さんと目が合ってにっこりと微笑まれたので、会釈をしてお店を後にする。
「跡部?」
「あーん?」
「ショッピング終了?」
「ああ。帰るぞ」
「うっわ、自己中!」
「うるせえ」
朝同様ギャーギャーと揉めながらの帰宅。
家に着くと20時を回っていた。
夕食を済ませ、先にお風呂も済ませた私はリビングで寛いでいたのだが、洗濯物をしまっていない事を思い出してノロノロと動き出した。
衣類を畳んでいると目に入ったのが氷帝のユニホーム。
コスプレとかじゃない、本物のユニホームだ。
跡部には悪いけど…
勝手に拝借して、部屋着からユニホームに早着替え。
鏡の前に立ってニヤつく私は大層気持ちが悪い事だろう。
ブカブカしているけど、なかなか似合ってるじゃないか。
そこへ、お風呂から上がった跡部がやって来た。
「あーん?名前、何してんだ」
「あ」
「あ?」
「ごめん、つい…かっこ良くて」
「…いいんじゃねえの?」
「へへ。今日コレ着て寝ようかな」
「好きにしろ」
「やった!氷帝!氷帝!勝つのは氷帝♪」
「…バーカ」
お許しを頂いた私は本日、氷帝のユニホームを着て寝させて頂く事に相成りました!
だいぶテンションが上がっているのは許して貰いたい。
「名前、こっち来い」
「ん?何?」
「ここ座れ」
一旦テンションを落ち着けて、跡部が座っているソファに自分も腰掛けた。
「そこから動くなよ。んで、前向いてろ」
「?うん」
私の返事を確認すると、跡部は立ち上がって私の後ろに立った。
そして…
「っうひゃ!な、何」
首元に冷たい感触。
驚いて鎖骨の辺りに手をやると…
「え…ネックレス?」
首元に目をやると、菫色の小さな石が輝いていた。
華奢なシルバーのチェーンの先でキラキラと光り、控えめに主張している。
いつの間にか跡部は隣に戻って来て、じっと私を見つめていた。
何これ恥ずかしい。
「あ、跡部?…これ…」
「お前にやる」
「ど、どうしたの?」
「今日モデルで稼いだ金で買った」
「え!…まさか、なかなかの条件って」
「ああ。俺様が無条件であんな事するかよ」
「…ど、どうしよ。すごい…嬉しい」
「アイオライト。石言葉ってのがあって…心の安定とか不安の解消とからしい」
「跡部…ありがと。嬉し…」
「は!?な、何泣いてやがる!」
「う、跡部の、ばかやろ」
「あーん?」
「っ大切に、するっ」
「ああ。一生肌身離さず持ってろ」
「うんっ。一生!大切に持ってる!」
私たちはどちらからともなく抱き締め合った。
恋人じゃない2人。
そして、恋人になれない2人。
けど…ああ、今凄く幸せだ。
跡部は私の心の不安を感じ取っていたのだろうか。
それを考えて私の為にこの石を選んでくれたのだろうか。
私なんかよりずっと、跡部の方が不安なはずなのに…

(私は彼の不安を)
(少しでも和らげる事が出来ているだろうか)

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