いるから。 | ナノ

26

2人で夕食も片付けも済ませ、後は寝るだけだ。
跡部も昨日の看病疲れと今日のトレーニングの疲れが溜まっているようで、だいぶ眠そうな顔をしている。
…すごく可愛い、怒られそうだから言わないけど。
私の方は、跡部の看病のおかげかかなり良くなっていた。
もう一晩しっかり寝れば全快しそうだ。
「名前、寝るぞ」
「うん」
一緒に寝室に向かい、いつものようにシングルベッドを半分こ。
2人で寝るのも最早日課というか当然の事のようだ。
これもいつ終わるとも知れない一時の幸せ。
まあ、今更別々に寝ようとも思わないのだけど。
「名前…」
「ん?」
「ねみい…」
「うん、寝よ」
「…おやすみ」
「おやすみ、跡部」
どうやら跡部は思っていた以上に疲れていたらしい。
布団に入るなり私を抱き枕にし、あっという間に寝落ちてしまった。
こんな跡部を拝める日が来ようとは…
あの俺様なキングが、私に無防備に身を預けてくれている。
幸せ過ぎてどうにかなりそうだ。
「…跡部」
どうか、あと少しだけ一緒に居させて下さい。
祈るように…跡部の頬に唇を寄せた。

翌朝、予定通り全快した私は家事をこなしていた。
真夏の朝日を浴びながら洗濯物を干している。
昨日跡部がトレーニングに着て行った氷帝のユニホームをパンパンと叩いて広げた。
サイズが小さいのだが、私が寝込んで家事サボったのでコレしか無かったのだ。
ごめん、跡部。
氷帝のユニ、かっこいいな。
コレを着て跡部の試合を同じ世界で応援出来たらいいのに
…叶わぬ夢だ。
暫く経って跡部が起きて来た。
「跡部おはよ!」
「くぁ〜。はよ」
まだ眠いらしい。
キングが大口開けて欠伸している。
「今日はトレーニングいいの?」
「ああ。名前は今日の予定は」
「うーん、無い。ちょっと気分転換に出掛ける?」
「暇なんだろ?付き合ってやってもいいぜ」
「暇とか失礼なヤツ!」
なんだかんだと揉めながら、私たちはショッピングに繰り出していた。
学生さんは夏休みの時期、街はごった返していた。
繁華街のちょっと外れに物凄い人混みを発見。
気になった私が、嫌がる跡部を引っ張って近付いていくと…
「すいません!ちょっといいですか!?」
凄く焦った様子の男性2人が私たちを呼び止めた。
「あーん?何の用だ」
「君!頼みがあるんだ!」
「頼みます!モデルやって貰えませんか!!」
「も、モデル?」
「君、彼女?彼をちょっとだけ貸して貰えないかな」
「あーん?勝手に話進めてんじゃねえ、行くぞ名前」
「ま、待って!本当に困ってるんだ!今そこのホールでファッションショーのイベントやってるんだけど、モデルが1人急病で足りないんだ!君、凄くかっこいいから声掛けさせて貰った。出て貰えないか?」
「え…ファッションショーって…」
「お礼は必ずします!1回でいいので、ランウェイ歩いて貰えませんか!」
「…」
「お願いします!!」
「…条件がある」

少し離れた所で男性2人と話を付けたらしい跡部が戻ってきた。
そして私の手を引いてホールに向かって歩き出す。
「あ、跡部?やるの?」
「ああ。なかなかいい条件貰ったからな」
ニヤリと、口元を吊り上げて笑った。
私は1人、会場の最も良い席…最前の関係者席に案内された。
既にショーは始まっており、所謂イケメンが煌びやかに花道を歩いているわけだが…正直、跡部の方が断然かっこいい、なんて思ってしまう私はもう手遅れなのだろうか。
しばらくすると会場の雰囲気がガラリと変わり、モード系の服装のモデルさんが歩き始めた。
跡部もこんな感じのが似合うだろうなと思っていると、会場が俄かにざわつき始める。
「あれ誰!?」
「すっごいかっこいいんですけど!」
「新人?見た事無いよね!」
周りの女の子たちが見つめる先を追って、目を見張った。
「う、わ…跡部…」
サングラスを掛け、真っ白なワイシャツに真っ黒のジレ、ブーツインした細身のパンツに、手にはジャケットを持って肩に引っ掛けている。
眩暈がする程綺麗。
歓声の中だんだんと近付いて来る跡部をじっと見つめる。
サングラスをしていてはっきりとは分からないが、こちらを見てくれているような気がする。
そして私の目の前に来た時…
サングラスの隙間から、私を見つめる優しい瞳を覗かせた。
ああ…また胸が苦しくなった。

(ライトに照らされて消えてしまいそうな後姿)
(遠くに、行かないで)

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