いるから。 | ナノ

25

4日目の午後。
跡部は1人でトレーニングへ。
私はまだ病み上がりなのでお留守番だった。
現在18時、そろそろトレーニングも終わる頃だろう。
疲れて帰ってくる跡部の為の夕食の準備は既に完璧だ。
リビングで寛いでいるとインターホンが鳴った。
ん?跡部は鳴らさないし、誰だろうとモニターを見ると
…そこには柊さんが立っていた。
「よっ!…具合、大丈夫か」
「はい。昨日は本当にすいませんでした」
「いや、大丈夫ならいいんだ」
「ありがとうございます。楽しかったです…最後はお恥ずかしいとこお見せしちゃいましたけど」
「はは。なかなかお前のあんな姿見れないからな、レアだな」
「!柊さん!他言無用ですよ!」
「分かってるよ。まあ俺としては…お前の部屋着姿見れた今日もなかなかレアだけどな」
「ちょ!柊さん!セクハラです!」
良かった。
結構普通に話せてる。
昨日顔が近付いてきた時はキスされるのかと思ったけど、ただの私の勘違いだったのかもしれない。
恥ずかしい。
玄関先で長話も、と思い中へ促そうとしたその時…
「…苗字」
手を掴まれた。
ぐっと強く握られて痛い。
「あの…柊さん?」
「昨日の彼…一緒に住んでるの?」
玄関に置かれた男物の靴をチラリと見て、柊さんの目付きが鋭くなる。
いつもの明るい雰囲気は何処にもない。
…怖い、どうしよう…
どうすれば良いか分からず、困惑の表情を柊さんに向けると
その向こう側に…
「何か、御用でしょうか?」
トレーニングを終えて帰宅した跡部が息を切らして佇んでいた。
汗が額から滴っている。
私の手を掴む柊さんの手の力が、更に強くなった。
跡部を見る目が鋭くなる。
「いや、君に用は無いよ。君はどうしてここに?」
「…ここは…俺の家でもありますから」
跡部の目は柊さんを通り越して私を見ていた。
そしてその顔は優しく、慈愛に満ちた表情。
思わず溜め息が出る程に美しかった。
やっと柊さんは手を離してくれた。
ホッとしたのも束の間、一歩近付き、ごく自然に抱き締めてきた。
「!?」
「ひ、柊さ…」
「元気な顔見れて安心した。休暇の間にしっかり治せよ」
そう言ってスッと体を離し「おやすみ」と行って帰って行った。
あまりに突然の出来事でただ茫然としていたが、玄関の閉まる音で我に返った。
「…ただいま」
「!お、おかえり!」
跡部は何故か上がろうとしない。
表情を伺って私は愕然とした。
いつもは吊り上った形の良い眉が、今はハの字に垂れているのだ。
「跡部?」
「…」
どうしたのかと尋ねようとしたら、
今度は跡部に抱き締められた。
ぎゅうっと強く、だけど優しく。
その行動に私は、心臓が潰れてしまうんじゃないかと思うくらい胸が締め付けられた。
「他の男に、抱き締められてんじゃねえ」
「え?あ、ご、ごめんなさい?」
「くくっ、なんで疑問系なんだ」
「いや、だって…」
「はぁ…あちぃ、風呂入ってくる」
「うん、もう沸いてるよ」
「ふっ。新婚みてえだな」
「!?」
ニヤリと笑って颯爽とお風呂に向かった。
なんだか悔しい。
でも…嬉しかった。
『…ここは…俺の家でもありますから』
あんな事言ってくれるなんて。

(耳に残るあの優しい声が)
(また私の胸を締め付けた)

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