いるから。 | ナノ

24

跡部がここに来てから、4日か。
私の指導の下、跡部が作ってくれたちょっと苦いお粥を食べながら(何故苦いのかはきっとご想像の通りかと)ここ数日の事を考えていた。
正直、出会って4日というのが信じられない程、私は跡部の存在に依存している。
家に1人が当たり前だったのが、今では跡部が居ないと寂しいと感じてしまう。
そしてそれは他の誰かでは補えない。
誰でもいいから、ではない。
跡部でないと駄目なのだ。
だけどそれはとても曖昧な関係…
家族?
姉弟?
友達?
恋人?
きっと今の私たちはこのどれにも当て嵌まらない。
そうして色々考えていると最終的に辿り着くのは
『跡部はいつか…居なくなってしまう』って事。
分かってる。
跡部は帰らなきゃいけない。
彼を待っている人たちが沢山居る。
やらなきゃいけない事も沢山ある。
きっと跡部も帰る事を望んでる。
私は出来る事なら一緒に居て欲しい。
けど、彼をこの世界に縛り付けてはいけない。
帰り方を…探してあげなきゃ…
何処かに何か手掛かりがあるかもしれない。
「名前」
悶々と考えてると声を掛けられた。
顔を上げると跡部がテーブルに肘を着き、じっと私を見つめていた。
「まだ具合悪いのか?」
「もう大丈夫だよ。ありがと。お粥、ご馳走様」
「…名前」
「ん?」
「何、考えてた?」
「…何も?」
「嘘付くんじゃねえ」
キングは何でもお見通しなんだろうか。
目を逸らさず、探るような視線を送ってくる。
「跡部が帰る方法を、探さなきゃなって」
「…んなもん、探して見つかるようなもんじゃねえだろ」
「ちょっとだけ気になる事がある」
「…別に何も病み上がりに」
「もしそれが手掛かりなら、…早めに確認するに越した事無いかなと、思って…」
私は立ち上がって食器をシンクに置き、跡部の手を掴んだ。
向かうのは…私の大好きな、あの部屋。
「ここは?」
「私の大好きな物が詰まった部屋」
「あーん?趣味の部屋か………!?」
跡部は部屋に入った瞬間、驚いて固まっている。
それもそうだ。
だってここは『テニスの王子様』で溢れているのだから。
「名前、…お前喧嘩売ってんのか」
「え?何言ってんの?」
「なんで俺様の物が一つもねえんだ」
「はい?跡部が一番多いのに何言って…え…」
今度は私が凍りつく番だった。
私の大好きな跡部のグッズ類が、忽然と姿を消していたのだ。
そう言えば跡部が来てからこの部屋には一度も入っていない。
まさか、跡部がこちらの世界に来た事で何かが狂ってしまったのか。
コミックを引っ張り出してみると、予想通り跡部景吾という登場人物は存在しなかった。
35巻の表紙はリョーマくんになっている。
!そうか、買い物に出掛けた時も跡部を見て周りで騒ぐ人も居なかった。
登場していないのだから、分かる人が居るはずもない。
跡部の居ない氷帝…想像も付かないし、したくもない。
「…俺以外のヤツらは、登場してるみたいだな。向こうでの俺の存在が消えてるって事か…」
跡部はパラパラと頁を捲りながら考えを巡らせているようだ。
「で、手掛かりになりそうな物ってヤツは?」
「!あ、こっち」
私は部屋の隅に置かれた箱を指差した。
この中には、私の持ち物が消えた代わりに現れた物たちが入っているのだ。
ボールは跡部の物と入れ代わったみたいだから、もしかしたら他の物も…
「…俺様のスポーツタオルじゃねえか」
「や、やっぱり」
「この白いリストバンドは…真田と試合した日に消えた…」
「え!立海に乗り込んだ時の!?」
「ああ、試合を幸村に止められて立海を出る時に消えた」
「わ…凄い。なんか感動」
「何言ってやがる。…欲しけりゃやる」
「え!いいの!?」
「ああ」
「あ、でもコレが消えた時ハンカチは現れてないんだよね?」
「…ああ、知らねえ」
「そっか。やっぱ違う世界に飛ばされたって事か…」
付箋もハンカチも行方知れず。
入れ代わったのは…ボールだけ、か。
でも何かきっかけになるかもしれない重要な物ではありそうだ。
でも私は妙に焦っていた。
跡部の存在が『テニスの王子様』の世界から消えてしまったのだとしたら、帰って欲しくないとか一緒に居たいとか思っている場合ではない。
私の大好きな跡部がテニプリに居ないなんて…

(帰らせる)
(大好きな貴方を必ず)

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