いるから。 | ナノ

23

ブーッブーッブーッ
「う…」
携帯のバイブ音がする。短いという事はメール。
メールなら後でもいいや。
うっすらと目を開けると、カーテンの隙間から日が差し込んでいて夜が明けたのだと理解する。
徐々に意識がはっきりとしてくると腰の辺りに手が巻き付いている事に気付く。
横を向くと跡部が熟睡していた。
こんな無防備な寝顔を見るのは初めてだ。
いつも私が先に寝てたし。
夜中看病してくれたらしい。
熱も下がったみたいだ。
体はだいぶ楽になり、あるのは高熱後の関節の痛みくらいか。
サイドテーブルにタオルや冷却シートなどが散乱しているのを見て、一生懸命やってくれたのだと嬉しくなった。
上半身を起こして跡部を見つめる。
「跡部、ありがと」
きっと疲れただろう…身動ぎ一つしない。
しばらく寝ていて貰おう。
私はそっとベッドから抜け出してお風呂に向かった。

お風呂から上がると、跡部がキッチンでコーヒーを淹れていた。
「おはよう、跡部」
「ああ、はよ。もう大丈夫なのか?」
「うん。ありがとう、跡部のおかげ」
そう言った途端、みるみるうちに跡部の顔が赤く染まった。
な、何が起こった!?
耳まで真っ赤だ。
「あ、あのまま転がしといたら高熱でお陀仏だろうが!」
「い、いや。だから、ありがとうって」
「ふんっ、当たり前だ!俺様が薬与えてやんなきゃどうなってたと、あ」
「!!」
そ、それか!
あの、あの口移し!
まさか跡部今更照れてるとか…ど、どうしよ。
なんかこっちまで顔熱くなって来た。
「なっ何赤くなってやがる!」
「耳まで真っ赤の人に言われたくないね!」
「!なんだと!俺は別に…」
駄目だ、埒があかない。
落ち着け自分。落ち着け。
私は跡部に助けて貰った。
ホントに感謝してる。
嬉しかったんだ。
素直になれ。
「はぁ。…跡部?」
「…なんだよ」
やっと視線が絡み合う。
アイスブルーが、揺れた。
跡部の所まで歩み寄る。
両手を広げて…跡部に抱き着いた。
嫌がりはしないらしい。
胸に耳を当てると跡部の心音が心地好い。
やがて、跡部の手も私の背に回り…
ぎゅうっと強く抱き締められた。
いつもはベッドに横になっている時しかこんな事してないからか、いつもよりちょっとだけドキドキする。
「良くなって…安心した」
「跡部のおかげだよ」
「無理に出掛けるんじゃねえよ」
「ごめんなさい。反省してます。」
「…あの男は…上司か?」
「うん、頼れる先輩。いい上司だよ」
「向こうは…違う目で見てるようだがな」
「…」
「アイツ、名前は俺の恋人だって聞いて目丸くしてたな」
「こ、恋人って…それは」
「この事も!…俺は、謝るつもりねえからな」
「!」
バッと跡部の顔を見上げると、思いの外真剣な表情に出会った。
昨日も…口移しだけじゃない普通のキスも、謝らないって言ってた。
恋人発言も…謝らないって、それって…
「あ、あと…!?」
名前を呼ぶのを遮られ、先程よりもずっときつく抱き締められた。
隙間すらない程にきつく。
「お前、危なっかしいんだよ。もっと警戒心持て」
「そんな、誰もかれも警戒ばっか出来ないでしょ。まして上司…」
「うるせえ。男は皆危険なんだよ、俺様以外はな!」
「…凄い持論だわ」
「あーん?」

(4日目)
(曖昧な幸せに浸る朝)

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