いるから。 | ナノ

19

「名前!!おい、名前起きろ!」
「…ぅえー、もう朝?」
「ああ、まだ7時だけどな。携帯鳴ってんぞ」
「えー、こんな朝から誰だまったく」
「早く出ろ、鳴りっぱなしでうるせえ」
跡部は私に背を向けてまた布団に包まった。
まだ眠いらしい。
なんか可愛い。
携帯を見ると『柊さん』からの着信。
仕事は一段落しているはずなのにどうしたのだろう。
「もしもし、苗字です」
『あ、苗字…おはよ、朝からすまん』
「おはようございます、柊さん。何か問題発生しました?」
『いや、なんともない。あー、今日はさ。なんつーか』
柊さんには申し訳ないが寝転がったまま電話だ。
起き上がる気力が無い。
ごそごそ。
私の後ろで跡部が動く気配がした。
寝てしまったのだろうかと思って振り向くと…
「っ!?」
『…どうした?苗字、今忙しいか?』
「い、いえ。大丈夫です。寝起きなだけです…」
跡部がじっとこちらを見つめていた。
綺麗なアイスブルーの瞳に私が映り込んでいる。
その射抜くような瞳から目を逸らせないまま、電話を続けた。
「それで…あの、ご用件は…」
『あー、だからその。今日暇ならどっか行かないか?』
「え!?」
『用があるなら!!無理にとは言わない…から』
「あー、えと。あまり遅くまでは無理ですけど、日中なら…」
『ほ、ほんとか!よっしゃ!あ、いや、じゃぁ…10時に俺らの職場の脇のカフェ前とか…平気か?』
「はい。大丈夫です。」
途中、跡部から目を逸らしてしまった。
跡部も今は視線をずらしている。
よく分からないけどモヤモヤする。
テニスの疲れも取れていないのか、体もなんだかだるい。
考える事が面倒になった私は、もうちょっとだけ寝る事にした。
「跡部」
「…なんだ?」
「今日、私出掛けるけど…自由にしてていいからね。家の鍵も置いておくから。」
「ああ、分かった。悪いな」
「…」
よく分からないけど無性に跡部を近くに感じたくなった。
気付けば自分から跡部にしがみ付いていた。
それを嫌がる様子も無く、そっと抱き締めてくれた。
そうだ、この感じ…やっぱ落ち着く。
「また寝るのかよ」
「ん。もう少しだけ…」
「ガーキ」
「うっさい」
跡部の温もりに包まれてどんどん睡魔に引き込まれていく。
意識が遠のく頃、頬を柔らかく何かが掠めたような気がした。

現在AM8:30
まだ体がだるいとか、どんだけ体力無いの私。
跡部にバカにされるのも無理はない。
起きた時既に跡部は居なかった。
靴やラケットが無いので練習しに行ったのだろう。
朝食、食べさせてあげられなかったなと思い、今は昼食の準備をしている。
運動の後なのでサンドイッチとサラダの軽食だけど。
柊さん…びっくりしたな。
まさかこの連休中に仕事以外で会う事になるとは思っていなかった。
今日のはやっぱり『デート』って事だよね。
何度か耳にした職場での話を思い出した。
イケメンで人気者の柊さんは女性社員から沢山言い寄られているのだが、誰とも付き合わないらしい。
そしてその理由は…私にあるのだと。
柊さんはすごくよく面倒を見てくれて、厳しいけど優しくて頼りになる先輩だ。
それは他の人たちにも同じだと思っている。
でも…ここの所随分優しいなって思ってはいた。
あんまり深く考えるのはよそう。
意識し過ぎるとギクシャクしちゃうし。
今日は気軽に行ったらいいよね?

(早く帰らなきゃと…)
(一緒に居たいと思うのは…)

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