いるから。 | ナノ

18 -Atobe side-

俺は今、名前の家を抜け出して走っている。
体力を維持する為という理由もあるが、少し1人になって頭を整理しなければと思ったからだ。
今日分かった事だが、以前俺の自主練中に突如現れた真新しいボールは2つとも名前の物だった。
俺が使っていたボロ球も2つとも名前の元にあるらしい。
これはきっと俺がこの世界に飛ばされた事に関係しているのだろう。
考えた所でこんな非現実的な事、何か解明するわけでもないのだが。
今予測出来る事は、恐らく俺はいつか元の世界に戻るのだろう、という事だ。
俺には氷帝学園テニス部部長として、やり残した事が山程ある。
帰らなければならないのだ。
ならばその予測通り事が進めば俺にとっては好都合。
だか俺は、氷帝のキングにあるまじき事を考えてしまった。

越前に負けた…
青学に負けた…
全国も終わった…
そして、
まだ2日しか滞在していないというのに、名前という存在に不本意ながら心を救われ、居心地が好いと感じてしまっている。
ここに居るのも悪くない、と…
走りながら俺は自分の両頬をバチバチと叩いた。
こんな軟弱な考えを持っていていいわけがない。
いつ帰ってもいいように、トレーニングは必ず欠かさずやらなければならない。
今までだってそうして来た。
『努力』ではない。
『当然』の事なのだ。

ランニングを終えて帰宅し、シャワーを浴びて寝室へ入ると…
仄暗い照明の中、名前は寝息を立てていた。
物音にも反応しない程熟睡しているようだ。
あんな打ち合いだけでどんだけ疲れてんだよ、と苦笑する。
そしてベッドにそっと近付いて、俺は息を呑んだ。
名前は壁際に身を寄せてこちら側を向き、枕を1つ抱き締めながら寝ていたのだ。
しっかり俺の寝るスペースが空いてるじゃねえか。
ギュウっと、胸の奥が絞られるような感覚を覚えた。
俺が居なくなったらコイツは…
いや、そんな事今考えても仕方ねえ。
「ったく、このバァカ」
名前がギュッと抱き締めている枕を退かして、自分もベッドに潜り込む。
腕枕をしてさ迷う名前の手を俺の体に巻き付けてやると、安心したように抱き着いてまた寝息を立て始めた。
「名前の癖に…可愛い事してんじゃねえよ」

(無防備な顔で眠る名前の額に)
(そっと口づけた)

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