いるから。 | ナノ

17

『2個無くしたか?』
跡部のその問いに凍りついていた私は、漸く返答する事が出来た。
「2個、無くした…っていうか…消えた」
「冗談、では無さそうだな」
「跡部も、ボール…」
「ああ、無くした。正確には消えて…そしてこのボールが現れたんだがな」
ボールをこちらに向けて私の発言に被せるように言ってきた。
やっぱり…間違いじゃなかった。
お互いのボールが
…トリップしたのだ。
「非現実的だな。まぁ、俺がこんな所に居る事こそ正しく非現実的なんだが」
「ボール…跡部のとこから来たボール、すごい使い古してあった。このボールの持ち主はすごく努力してる人なんだろうなって、ずっと思ってた。」
「ふっ…持ち主がこの俺で信じられねぇか」
「全然?私知ってるよ。跡部は人一倍努力家だって事」
「ふんっ、言ってろ」
自然と笑顔が溢れた。
跡部の努力の証の1つ。
私はあのボールの持ち主が跡部で嬉しかったのだと思う。
この2日が慌ただし過ぎて忘れてしまっていたが、今日のこの発見が無ければ分からないままだったかもしれない。
誰のものかも分からないものをいつまでも置いておく趣味は無いが、跡部のだと分かったのだから話は別だ。
一気に私の宝物昇格である。
「何ニヤついてんだ、あーん?」
「ふふ。私のサイン入りボール返してくれるまで、あれは私が預かっとくからねっ」
「ふん。勝手にしろ」

それから私たちは帰宅後昼食を摂り、リビングで寛いでいた。
「跡部、ボールの他にも何か現れなかった?」
「…他?例えば?」
「ハンカチとか、後はー、付箋紙とか」
「さぁな。見知らぬ物はたいていミカエルが処分するからな。」
「ミカエルさん…執事さんね!ふぅん。跡部の所じゃ無かったら何処に飛ばされちゃったんだろう」
「知るか。…そんな大事なもんなのか?その、ハンカチとかよ」
「うん。ハンカチはね、1年くらい前に受け持ってた仕事が大成功した時に自分へのご褒美に買ったんだ。水色に小さい黒猫の刺繍があってすっごい可愛いんだよ!でも限定品だからもう何処にも売ってないんだよね。結構落ち込んだ。」
「…ほぅ?で、もう1つは」
「付箋紙?はね、ま、隠しても仕方ないから言っちゃうけど、ずっと漫画に貼っておいたやつなんだ。」
「あーん?漫画に貼って何の意味があんだ?」
「跡部、立海に1人で乗り込んで真田と試合したでしょ?」
「…あぁ、何でも知ってるんだったな。途中幸村に止められはしたが、俺の糧となる試合ではあったな」
「私ね、その話の跡部がさ…かっこよくて大っ好きなんだ。余計なお世話だけど、頑張れ頑張れって応援したくて…だから、氷帝カラーの水色の付箋に『頑張って』って書いて常に貼ってある」
「!?」
私の話を聞いて、跡部はこれまでにない程驚いた顔をした。
話してる途中でまた自分の『跡部大好き』発言に気付いてそれの事で驚いたのかと思ったのだが、赤面はしていないようだ。
「跡部、今度は何?」
「…いや」
「なーんだよ、勿体付けちゃって!」
驚きの表情から何かを考えるように顎を指で何度か触った後、ニヤリとまたいつもの勝ち気な笑みを浮かべた。
「何処に飛ばされてたっていいんじゃねぇの?その言葉…必ず、力になってんだろ」
そう言って跡部は目を細めて私をじっと見つめた。
何これ、すごく照れる。
「あ、跡部もそんな風に思う事ってあるんだ?」
跡部に誉められた気分になり、自分の顔が熱くなるのを感じて急いで目を反らして俯いた。
「ふっ。さぁな」
「なーにそれ?無責任なやつ!」
そんな感じで、話をしたり一緒に洗濯をしたり(あの跡部様に洗濯をやらせる私って…)で時間は過ぎていき、夕食を摂った所で跡部がランニングに行くと言い出した。
私はあんなちょっとでもテニスをして疲れていたので、お風呂に入って先に寝る事にした。
だって跡部だよ、いくら手加減するったってこちらの疲労はハンパないのだ。
やる事全部終わらせて、1人ベッドに入った。
そして妙な違和感に気付く。
「…ああ、そっか」
その違和感の正体にもすぐに気付いた。
「跡部が居ない」
そういえば…まだ2日しか経っていないが、寝る時は一緒だった。
狭いシングルベッドで腕枕をしてもらい、しっかりと抱き締められて寝ていたのだ。
それが今までと同じ、1人ぼっちになって…寂しいわけだ。
「…寂しい?」
私はブンブンと首を振った。
寂しいなんて思っちゃいけない。
彼はきっと元の世界に帰る。
そうしたら私はまた今まで通りの独り暮らしに戻るのだ。
寂しいなんて…

(たった数日で)
(こんなにも依存していたなんて)

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