いるから。 | ナノ

16

「暑い!跡部!暑いよ!!」
「うるせぇ!軽く打ち合っただけだろうが!もうへばったのか?」
「…くそぅ、爽やかな顔しちゃって!!」
「あぁん?ったく、脇で休んでろ。1人でサーブやるからボール全部寄越せ!」
「人使い荒いんだから!今休んでろって言ったじゃん!しょうがないな、もー」
暑さでふらふらしながら、跡部サマの言う通りにありったけのボールを彼に向かって転がした。
勿論、なるべく動きたくないので持ってってなんかやらない。
「ふん、しっかり見とけよ」
こちらを射抜くように見据えてから、ニヤリと不敵に笑って見せた。
その美しい表情に見入っているうちに、空高くボールがトスされ…
ドッ!!
ザァアアアッ!!!
「う、わ…これ、タンホイザーサーブ!すご」
「お前、俺様の技知ってんのか」
「そりゃ知ってるよ!好きな人の技覚えてないとか有り得ないでしょ!私跡部が一番大好きなんだか、ら…あ」
「!」
しまった!
何口走ってるの私!!
うっわ!うわ!絶対バカにされる!
絶対「ストーカーかよ」とか「気持ちわりぃな」とか…
て…え、あれ。
「……」
「ちょ、と。…跡部?」
嘲笑ったり罵ったりされるかと思っていた私は目を見開いた。
跡部が、あの跡部が!
茫然と立ち尽くして耳まで赤くして…照れてる。
あれはどう見ても暑さのせいじゃなく…
「あ、あのぅ。あー、えと、跡部さまー?」
「!?」
跡部はハッとして、真っ赤な顔のまま眉を吊り上げて喚き始めた。
「っおま!お、俺様に告白しようなんざ100年早いんだよ!あぁん!?」
「な!告白じゃないし!勘違いしないでよね!勝手に赤くなってないでよ!」
この中学生染みたやり取りはなんだろうか。
あ、実際跡部は中学生か。
なんて言ってる場合じゃない。
とりあえず彼の赤面をどうにかして欲しい!
跡部がこんな事で赤面するとかキャラ崩壊してる!
「ほら!サーブやるんでしょ!?どんどんやっちゃって!ほらほら!」
なんとか上手く流そうとするが、跡部は赤面をそのままに黙ってジト目でこちらを見てくる。
「な、何?」
「ふんっ…なんでもねぇ。」
ふいと顔を背けてサーブを始めた跡部。
何を言いたかったんだろうか。気になるけど、とりあえずあの辱しめを追求しないでくれたので良しとしよう。

暫く経ってサーブの練習を終えた跡部は、木陰で涼んでいた私の元へやって来た。
申し訳ないけど初っぱなからへばった私は、水分補給をして1人ずっと休憩していたのだ。
突っ立ったまま何もせず一言も発しない跡部を不思議に思って見上げた。
よく見れば驚いた様な何かを考えているような…なんとも言えない表情をしている。
「跡部?どうしたの?」
私の声にハッとしたように体を揺らし、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
視線が絡み合う。
「これ、お前のボールか?」
手を前に突き出して黄色いボールを1つ私に見せた。
それには私の物である印、歪なニコニコマークが描かれている。
「そうだけど…何で?」
私の返答に更に驚きの表情を見せる跡部。
そして―
「お前、このボール…2個無くしたか?」
「!?」

(驚きを隠そうともせず)
(彼を見つめる事しか出来なかった)

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