いるから。 | ナノ

14 -Atobe side-

「跡部が元の世界に帰れるまで、ちゃんとサポートするから安心して!」
意気込んでそう言われて、俺は何とも言えない安心感を覚えた。
俺の事を知っているとは言え、出会って1日の他人を受け入れる順応性、お節介、お人好し、…いや、優しさか。
この俺様があっさりと丸め込まれるなんてな。
アイツらが見たらきっと驚くだろう。
越前との試合の後は、俺が消えた氷帝はどうなっているのだろうか。
その前に、俺の存在はどうなっている?
こちらに来た事で行方不明とされているのか、若しくは元々居ないものと見なされて時が進んでいるのか。
自分の体が一晩で成長したという信じがたい事実が発覚した時は正直、目眩がした。
こっちの世界では自分が漫画の登場人物だと知った時だって動揺した。
だが、バカみたいに明るく、辛気臭くならないこいつの無駄に元気な所、一切媚びない所に俺は救われたのだと思う。
そしてそれは現在進行形だ。
俺の住む世界では…俺をこんな風に扱う女なんて皆無だった。

気分転換にと買い物に連れ出された時も色々あった。
服を選んでいて名前を見失った時は凄まじい不安感に襲われ、俺は自分でも相当情けないと思う事態に陥った。
名前を見付けて駆け寄り、自分の腕の中に収めた。
そして、考え、悩んでいる事を表に出さないようにしていたつもりが、コイツには分かったらしい。
小さい体を目一杯広げて、強く、俺を抱き締めてきた。
じんわりと胸が温かくなるような安心感に包まれた。
あー、柄でもねぇな。
その心地好さに身を委ね、名前に擦り寄り、ホッと息を抜く。
落ち着く匂い。
ずっしりと担いでいた肩の荷が下りたような気がした。
「跡部…家に、帰ろう」
「ただいま」
「おかえり」
どうしてこの女は、俺の心をこうも温かくするのだろうか。
今も俺は、安心と心地好い温かさに身を委ねている。
食事もシャワーも終えた後、ソファーでウトウトして今にも眠りそうだった名前。
その無防備さに思わず苦笑する。
声を掛ければ、相当眠いのか喋りが覚束ない。
俺様の添い寝希望とは可愛い所があるじゃねぇの、なんて小バカにしてやったら、不機嫌を隠そうともせず拗ねて1人で寝室へ。
本当に年上かよ、ったく。
ベッドの脇に布団を敷こうとしている名前の手を掴んで止めさせ、抱き上げてベッドに寝かせた。
文句も言わず俺の入るスペースを開ける。
ベッドに入った瞬間名前の匂いに包まれて、ここでも安堵。
って俺は別に変態なんかじゃねぇぞ。
腕枕をしてやり、名前の体を抱き締めた。
俺の首元に頬を寄せて擦り寄ってくるコイツを、今まで感じた事の無い穏やかな気持ちで見つめた。
「おやすみ」
幼少期以来か、「おやすみ」をこんな純粋に温かい気持ちで言えたのは…。
非常に不本意ではあるが俺の不安を取り去ってくれたコイツを、もう一度ぎゅっと抱き締めて、俺も寝る事にする。
「ああ。あったけぇな…おやすみ、名前」

(いつ、帰れるのだろうか
いつ、帰らなければならないのだろうか)
(急に現れたもう1つの感情)

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