いるから。 | ナノ

13

「ただいまー!」
予定していた全ての買い物を済ませた私たちは、大荷物を抱えて帰宅した。
勿論、跡部にも荷物を持たせた。
働かざる者、食うべからず!だ。
ドッサァ!!
「指がいてえ!!」
荷物を玄関に放って文句を垂れているが無視だ無視。
手をぷらぷらと振りながら、靴を脱いで家に上がろうとする跡部を制した。
不服そうに私を睨み付けてくる。
「あーん?靴は脱いだぜ?」
「うん。それは当たり前。もう1つ当たり前の事忘れてる」
「当たり前の事?…荷物運びのご褒美にキスでもくれんのか?」
ダメだ、この坊っちゃんは。一瞬考えた結果がこれか。
「帰ってきたら、ただいま!でしょ?景ちゃん」
「!!その呼び方は止めろ!疲れたから休む!どけ!」
ちょっと顔赤いんですけど。
こういうとこ可愛いよね。でも許さないけど。
「駄目!ちゃんと言う!」
「……」
「今はさ、ここも跡部の家なんだよ。元の世界の大きなお城に帰るまでは、ここが跡部の居場所。だから」
「!」
私を面倒くさそうに睨み付けていた跡部が、弾かれたように目を見開いた。
そして、目を細めてニヤリと口角を吊り上げた。
「ふっ…俺の家の玄関サイズだがな」
「だから一言多いの!…で?」
「…ただいま」
「ふふっ、おかえり!跡部!」
「ったく。バァカ」
「今度から言わないと家上げないからね〜」
2人、笑い合いながら家に上がった。
なんだか温かくて心が満たされていく、そんな感じ。

夕食。
また2人向かい合って食べた。
「和食も悪くないな」と、綺麗にたいらげてくれた事にホッとした。
まぁ、長年独り暮らしの賜物だ。
諸々片付けも済んで、お風呂も済ませ、今はソファーで休憩中だ。
まだ会って1日目なんだよなぁ、と考える。
全くそんな感じがしなくて不思議だ。
しかし今日はなんて濃い1日だったのだろう。
まだ仕事の疲れも残っているのか、どっと疲労感が押し寄せてくる。
テレビを見ながらだんだんと瞼が重くなってきて、カクンカクンと舟を漕ぎ出した私を見て、跡部が優しい声で言った。
「眠いのか?」
「ん…眠い」
「ベッドで寝ろ。ここじゃ疲れが取れねぇ」
「ん。じゃ、行こ」
「歩けないのか?」
「違う。跡部も一緒に寝る」
「ベッド、シングルだろうが」
「…毎日添い寝してくれるって言った」
「くくっ。眠くなるとまるでガキだな、可愛いとこあるじゃねえの」
「うるさいな。嫌ならいい。布団出す。おやすみ」
「あ、おい」
眠気もMAXでふらふらと覚束ない足取りで寝室に向かう。
残りの力を振り絞ってベッドの隣に客人用の布団を引っ張り出して敷き始めたのだが、突然腕をぐいっと引かれて立ち上がった。
「跡部?」
「敷かなくていい。ほら、寝るぞ」
言うが早いか、ひょいと抱き上げられてベッドに寝かされた。
「狭い。もっとそっち寄れ」
「ん」
布団に入った事で、私の意識は朦朧とするくらい限界だ。
言われた通りモゾモゾと壁側に身を寄せた。
それにより出来たスペースに跡部が潜り込んできた。
そして、当然のように腕枕。
ふわふわと心地好くなってきた私は、跡部の首に顔を埋めて擦り寄った。
「お前、それ癖なのかよ?猫みてぇ。」
「うーん。も…寝る、跡部…おやす、み」
「ああ、おやすみ。名前」
意識を手放す瞬間、耳元で優しく囁かれた「おやすみ」に、ギュッと掴まれたように胸が苦しくなったけど…気付かない振りをした。

(長い1日が終わる)
(あと幾夜、超えられるのだろう)

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