いるから。 | ナノ

12

「腹立たしい程何でも似合うね」
「あーん?当たり前だ。この俺様に着こなせないもんなんかねぇ」
私と跡部は今買い物に来ている。
必要最低限の物を調達に。
今は跡部の服を選んでる所なんだけど。
安物を高価な物に見せてしまえる能力怖い!!
何を着てもキマってしまうのだ。
かっこいいのは分かってるけど、Tシャツにカーゴパンツなんてラフな格好でも、モデルが着こなしているかのように輝いて見えるのだから恐ろしい。
当然、周りの目も彼に集中するわけで…
平凡な一般女子である私は出来る限り早くこの場から立ち去りたいのである。
女の子がキャッキャする声が聞こえてくる。
今にも逆ナンしそうな勢いだ。
あまりの居心地の悪さに、跡部が服を選んでいる所から少し離れて待つ事にした。
そこで見付けた隣の雑貨屋さんが気になったので、覗きに行こうと一歩足を踏み出した。
のだけど…
ぐいっ
「ぎゃっ!ちょっと!」
「名前、どこ行く気だよ、あーん?」
いつの間にかすぐ後ろに居た跡部が、私のお腹の辺りに手を持ってきてぐいっと自分に引き寄せた。
心臓に悪いから止めていただきたい。
驚いて思わず変な声を出してしまったじゃないか。
「勝手に行こうとしてんじゃねぇよ。傍にいろ」
思いの外近い顔と耳元で聞こえたその台詞に、不謹慎にもドキリとしてしまう。
平然としているこの男が恨めしい。
こっちは自慢じゃないけど免疫無いんだから!
…アホらし、ホント自慢にならない。
「はぁ…分かったよ。で、もう決まったの?」
「ああ、これにする」
「は?これだけでいいの?」
「あの家にあの風呂のサイズ、金に困ってそうなやつに集る程俺様は落ちぶれてねぇ」
お腹に手を回したまま、めちゃくちゃキメ顔で見下ろされた。
「バカにしないでよね!私は働いてんの!人並みに貯金くらいあります!慎ましく暮らしてるってのに、なんて失礼なやつ!!」
「くくっ、冗談だ。分かってる。……突然現れた俺を無償で置いてくれてんだ、遠慮くらいはする」
「っ!?」
ふっと跡部の表情が翳ったのを私は見逃さなかった。
あの跡部の口からこんな言葉が出るなんて…
心臓がキシリと音を立てた。
私は跡部の方に向き直り…
ぎゅうっ
「!?…名前?」
跡部を正面から強く抱き締めた。
分かってしまった。
金持ちでプライドが高くて俺様なこの跡部も、不安なのだ。
大切な試合を終えた実感もないまま突然違う次元に1人放り出されて、自分は漫画の登場人物だと知らされて、心を置いたまま身体だけが大人になっていて…
もし自分がそうなったら、跡部のように平然となんてしていられないだろう。
私はこの彼の事をもっと気にかけてあげるべきだったのだ。
口や態度は偉そうでも、心は中学生だ。
「跡部…」
見上げるほど高い跡部の体をちょっとでも包めるようにと、手を出来る限り伸ばして更に強く抱き締めた。
「ふっ。本当に変なやつだぜ、お前は」
嫌がる素振りも見せず抱き締め返してきた。
息を抜いたように笑い、顔を私の首元に埋めてくる跡部。
猫のように擦り寄ってくるので、ツンツンした短い髪がくすぐったい。
「跡部…家に、帰ろう」
ふいに呟いた自分の声があんまり優しい声だったもんだから、思わず苦笑い。
「…ふっ。仕方ねぇな。俺様の家の玄関にも満たないあの家に帰ってやるよ」
「…一言も二言も余計だ!ぷっ…まったくもう」
ぎゅっと抱き締め合ったまま笑い合った。

(彼が彼らしくあるように)
(支えてあげたいと心から思った)

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