いるから。 | ナノ

11

「…」
「…」
2人で遅めのランチ。
私は目の前で優雅に食事をする跡部をじっと見つめていた。
「…」
「…なんだよ」
「うーん。ちょっとね、考え事」
「さすがに食いずれぇ。見てないで名前も食え」
「うん」
ずっと気になっている事があった。
跡部は中学3年の時点での身長は175cm…でも今私の目の前に居る跡部は、軽く180cmはあるように見える。
筋肉質な身体も去る事ながら、ゴツゴツ骨ばった男らしい手も、精悍な顔付きも…とても中学生には見えない。
まぁ、テニプリの登場人物のほとんどが中学生に見えないのだが、そういうのとは違う。
なんて言葉にすればいいのか。
「成長した」「大人になった」というのが妥当か。
私の思い違いでなければ…
昨日と今日でまるで年齢が変わってしまったかのような変化。
「まさか、ね。…そうだ!」
ガタンッ!
パスタの最後の一口を咀嚼して、勢いよく立ち上がった。
「なんだ、急に立ち上がって」
跡部の言葉をスルーして私はお風呂場に向かった。
「おい!どうしたんだよ」
私の後に続いて跡部も脱衣場に入ってくる。
そこである物を探り出した私は、それと跡部の身体を見比べた。
そして、予想が確信に変わる。
「跡部…」
「なんだよ、んな深刻な顔して」
「跡部、老けたんだよ!!」
「ぶっ」
お前バカかよって目で見ないで貰いたい。だってこれはきっと真実だ。
「いいから!まだ洗ってなくて悪いけどちょっとこれ着てみなよ!」
「あぁん?俺様に汗まみれのユニホームを着ろってか?」
「すぐ済むから、ね!老けたって言葉の意味もきっとすぐ分かる!」
跡部は訝しげな顔をしてユニホームを受け取った。
そして頭から被って腕を通した…その瞬間、
「…おいおい。まじかよ」
「やっぱり」
昨日ちょうどいいサイズだったはずのユニホームがキツくなっていたのだ。
私の予想は間違ってなかった。
彼の身体は一晩で「成長」したのだ。
「どういう事だ。なんとなく身体がおかしいような気はしてたが…環境が変わったせいかと思っていた。まさかこんな…」
「身長、伸びてるよね。それから…顔もさ、更に老け、いだっ!!…殴る事ないじゃない」
「次元超えて、年取ったってのか?だが、年を取ったと言っても見た感じ10年、いや15年くらいか。」
「…冷静だね」
「名前、お前年は?」
「ちょ、レディに年聞くなんて失礼ですわよ!!」
「うるせぇ…年は!」
「……ぅ」
「あぁん?」
「…じゅぅ…」
「聞こえねぇ、ハッキリ言え」
「くっ!29だ!!」
「…」
「(なにこの羞恥プレイ…)」
「まじかよ、もうすぐみそ、ぐはっ!おま、」
キング跡部様に肘鉄した人間は、後にも先にもこの私だけだろう。
肘鉄で済んだだけありがたいと思っていただきたい。
「っおい!別に何も言ってねぇだろうが!俺は29に見えねぇって言おうとしたっつぅの!凶暴な女だな!」
「…あーそうですか。そりゃどうも〜」
「ったく。…まぁいい。じゃあ俺は今お前と同じくらいの年齢になってるって事か」
「多分ね。この事に何か深い意味があるのかな、考えすぎ?元の世界に戻るとまた中学生に戻るって事?次元は違うのに時間軸は何か通じてるとか」
「…お前も案外冷静じゃねーの」
「ちっとも冷静じゃないよ。頭パンクしそう。…はぁ、気分転換しよっか!」
「あぁん?気分転換?」
「そ!お買い物行こう!跡部サイズの服買いに行かなきゃね!さ、そうと決まれば早速出発!」
「…フッ。変なやつ」
「あ!バカにしたな!なら跡部は毎日毎日同じパンツはいてればいいよ!」
「!?なんだと!?この俺がそんな事出来るか!!買い物行くぞ名前」
「ぷっ」
姿は大人びたけど中身は中学生のままなのかな。
子供っぽい所を覗かせる跡部を可愛いと思ってしまう。
これは母性、なのかな。
好都合だ。
大好きなキャラクターである事に間違いないが、いつか、それも今かもしれない明日かもしれないいつか、元の世界に帰ってしまうこの男を…「好き」になってはいけない。

(まだ大丈夫)
(彼はいつか消えてしまう、そう言い聞かせた)

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