THE PRINCE OF TENNIS | ナノ

不意/日吉

「日吉、1年生が呼んでるよ」
「…」
「ずっと待ってるから行ってあげて」
「…はぁ」
日吉はジト目で私を見た後、深く溜息を吐いて廊下に向かった。
彼の席は窓際の一番後ろ。
私の席は廊下側の一番後ろ。
日吉はテニス部で結構モテる。
今も1年生の可愛らしい女の子が私に『日吉先輩呼んで貰えますか?』と声を掛けて来た。
廊下側の一番後ろというのもなかなか面倒な席だ。
私はいつもそんな役回り。
暫くすると日吉が戻って来た。
「苗字、悪い」
「いえいえー。モテる男は辛いね」
「…別に。興味ないし」
そう言って私を一睨みした後、スタスタと自分の席に戻って行った。
首を傾げてその様子を見ているともう一度日吉がこちらを向く。
前髪が掛かった目の奥はどこを見ているのか定かではないけど。
なんだか居た堪れなくなって目を逸らした。

次の休み時間、また私に声が掛かった。
いつもと違うのはそれが男の声だって事。
「苗字さん、いきなりごめん。世界史の教科書ある?」
「鳳?あるけど…私?」
「あ、いや、ごめん。嫌だったら…」
「いいよいいよ!ほら、日吉に借りるかなって思ってたから」
「あ…うん、そうなんだけど、苗字さんに貸して欲しいなって…」
「…わ、分かった」
何これ。
なんかちょっと恥ずかしいんですけど。
鳳は日吉を通してちょっと面識がある程度。
仲良しって感じでも無かったので戸惑う。
鳳が帰った後無意識に窓際を見れば日吉と目が合った。
「!?」
「…」
鋭い細目が更に鋭くなったかと思うと不自然に逸らされる。
いったいなんなんだ。
それから日吉と目が合う事は無かった。

次の休み時間、鳳が教科書を返しに来た。
「苗字さん、ありがとう」
「いーえ、そんな急いで返してくれなくても大丈夫だったのに」
「あ、えと、ちょっと苗字さんとお話したいなと思って」
「え…」
だから恥ずかしいんだって。
日吉と性格は正反対と言ってもいい程温厚で愛嬌のいい鳳くん。
この人もきっとモテるんだろう。
彼の要求を呑んでこの休み時間はずっと他愛もない話をしながら過ごした。

「苗字」
「ん?日吉、何?」
帰りのHRが終了して帰り支度をしていると、ラケットバッグを背負った日吉がやって来た。
「お前、鳳と仲いいのか?」
「鳳?ああ、今日世界史貸したんだよ」
「…俺に言えばいいのに」
「あの席の運命ってヤツでしょ、声掛けやすいし」
「そんなもんか」
「そんなもんだよ」
これで会話は終了したと思っていたのだけど、何故か日吉は動く気配が無い。
「?」
「…」
「ちょっとちょっと、何ですか」
「お前、もう女子が俺を呼び出しても取りあうなよ」
「えー?私悪者になるじゃん」
「いいから言う事聞け」
なんて横暴なヤツだ。
そのせいで私がやっかみを受けてもいいと言うのか。
それもあるけど、せっかく頑張って話し掛けに来た女の子も不憫だ。
「女の子可哀想」
「関係ない」
「ひど…」
「…俺は好きなヤツからそんな事言われても全然嬉しくない」
「え…」
目を見開いて驚く私とは対称的に日吉の表情はいつも通り。
ただ1つ違うのはちょっとだけ赤くなった彼の頬…


「そんな不意打ちズルイと思う」
「お前が鈍感なだけ」

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