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7 Approccio

ある日の昼休み。
教室でいつものメンバーとランチをしていると急に廊下が騒がしくなった。
女の子が騒いでる声がする。
迷惑だと思いながらサンドイッチを頬張っていると突然ガラリとドアが開いた。
教室にも悲鳴に似た歓声が起こる。
「うわー、神宮寺さんじゃん。相変わらず女侍らせて凄いね」
友千香の発した『神宮寺』というワードに体が強張る。
隣のまさちゃんを見れば彼も神妙な顔をしていた。
カツカツと靴の音が響いて、やがてそれは私たちの後ろで止まった。
「やぁ、レディ。この前はお邪魔したね」
多分、いや明らかに私に話し掛けているんだろう。
だからと言って私に話さなきゃいけないという義務は無い。
正直、他の女の子たちに睨まれる様な事態にはなって欲しくないんだ。
それを知ってか知らずか彼は構う事無く私に近付いた。
「ねぇ、レディ。俺は君に話し掛けてるんだけどな」
「!!」
ふっと耳に息を掛ける様にこれでもかと顔を近付けて来た。
ここで動揺すれば負けだと、変にムキになって無視を決め込む。
「神宮寺。ここはお前のクラスでは無い。戻れ」
「うるさいぞ、聖川。俺はレディに話があるんだ。邪魔するな」
「ちょ、ちょっと名前!どうなっちゃってんの?」
「名前ちゃん、大丈夫ですか?」
友千香と春ちゃんは心配してそわそわしている。
音也となっちゃんも2人の徒ならぬ空気に茫然としてしまってるようだ。
私だって困る。
まさちゃんのあんな怖い顔は見たくないし、神宮寺って人と話すのだって御免だ。
「レディ、こっちを向いてくれないかい?」
「レディって誰の事でしょうか?あちらに沢山レディの皆さんが待ってますから行ってあげて下さい」
「…へぇ、意外と気が強いんだね。聖川も尻に敷かれてるんじゃないか?」
「…まさちゃんの事、悪く言うの止めて貰えます?」
「おーっと。お姫様のご機嫌を損ねる前に、今日の所は退散しようかな」
「二度と名前の前に現れるな、神宮寺」
やっと帰ってくれるとホッとした瞬間手首を掴まれ、そしてぐいと引き寄せられた。
「ちょっと!何すん…!!」
「なっ!神宮寺!貴様っ!!」
一瞬の出来事。
ちゅっと音を立てて頬にキスをされた。
教室中に女の子の悲鳴。
口をあんぐりと開けて呆ける友千香。
目を白黒させる春ちゃん。
赤面する音也。
わぁと興奮するなっちゃん。
怒りでどうにかなってしまいそうなまさちゃん。
そして…茫然とする私。
何故…
何故、一瞬嫌だと思わなかったのか。
私は動揺した。
確かに今、じわじわと嫌だという感情が支配している。
でもさっき、キスされた瞬間、
何故か懐かしいという感情が顔を出したのだ。
懐かしいはずはない。
あんな女たらしな男、知るはずもない。
よく分からないまま私は踵を返した彼の元へつかつかと歩み寄った。
夢の中に居るような浮遊感。
でもこれは現実だ。
彼の真後ろに立つと、気付いた彼が振り向く。
「あれ?レディ、どうしたの?もっとして欲しくなった?」
小首を傾げて妖艶に問うこの男に私は…
右手でぐっと頬を抓り、ほとんど無意識にこう告げていた。
「そういう事は、好きな子にだけやるんだよ」
「っ!?」
神宮寺は頬を抓られた状態のまま目を見開いていた。
私も自分で言って、やっておきながら驚いている。
バッと手を離して距離を置こうとすれば、その手を掴まれた。
「っレディ!…また、改めてお邪魔するよ」
「!…お、お断りします」
名残惜しいとばかりにやっと手を離して神宮寺は帰って行った。
侍らせて来た女の子たちに見向きもせず足早に。
未だ茫然としていた私の元にまさちゃんが駆け寄ってきた。
「名前!!大丈夫か!お前…」
「う、うん。まさちゃん。大丈夫だよ」
へらっと笑って見せればまさちゃんはホッとしたのか眉を下げて微笑んだ。
一時騒然としていた教室も気付けば皆それぞれ何事も無かったかのように過ごしている。
いつの間にか午後の授業開始時刻も近かったらしい、廊下の方で林檎先生の声が響いた。
未だ心配そうに私を見つめるまさちゃんにもう一度微笑み、自分の席についた。


(接近)
(私にかまわないで)

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