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6 Obiettivo -Ren side-

早乙女学園。
俺は神宮寺財閥の看板、所謂広告塔と成るべくこの学園に入った。
何の因果か同室は聖川財閥の跡取り、聖川真斗。
小さい頃から純粋で穢れを知らない、真面目腐ったこの男が
…俺は嫌いだ。

ある日俺は、中庭で1人のレディと仲睦まじく微笑み合っている聖川を見付けた。
驚いた。
あの聖川が柔らかい笑みを向けている、しかもその相手がレディだとは。
物陰から見ていれば、聖川は自分の着ていたカーデガンを彼女の肩に優しく掛けていた。
そして更に驚いた事にそのまま抱き締めている。
どんな関係なのか気になったし冷やかしてやろうと近付いた。
案の定俺を視界に捕えた聖川は睨む様な視線を送って来た。
彼女の顔を見せる気が無いらしく、抱えたまま。
何を問い掛けても教える気も無いらしい。
「まさちゃん」
小さな声が聴こえた。
彼女の名前は名前と言うらしい。
俺が名前を呼んだだけで毛を逆立てる猫のように威嚇する聖川。
…面白いじゃないか。
教室に戻ろうと立ち上がった彼女、名前を見つめていると…急に振り返った彼女と目が合った。
とても意思の強い瞳をしていた。
でも何故だろう
その瞳が、俺を哀れんでいるように見えたのは気のせいだろうか。
話し掛ければ簡単に流されてしまった。
益々面白いね。
あの聖川が大切にしているレディ、それだけでも十分興味深いというのに。
アイツから奪い取って見せ付けてやるのも面白いかもね。
きっとちょっと優しくしてあげれば…
ほら、
今俺の周りでうっとりとしているレディたちのように
あっという間に俺に堕ちるさ。

レディたちを宥めながらもう一度名前を見た。
聖川と微笑み合っている。
俺に向けた嫌悪を現すような表情とは違う、純粋な綺麗な笑顔。
あの笑顔が俺に向けられるようになったら、聖川はどんな悲壮な顔をして嘆くだろう。

名前…君が欲しくなったよ


「レン、おはようございます」
「ああ。おはよう、イッチー。あれ?」
「?…何か?」
「なんだか今日はご機嫌だね」
「そうでしょうか?」
「うん。いつもこんな顔をしているだろう?」
「失礼ですよ、レン」
自分の眉間にわざと皺を寄せて見せれば、同じ表情になるイッチー。
最近疲れている様子だった彼が今日やけに元気なのが気になる。
「素晴らしいピアニストに出会ったんですよ」
あのイッチーが柔らかい笑みを浮かべながらそう言った。
クラスの連中もざわついてる。
それはそうだ、いつも険しい顔をしている彼が笑ったんだから。
「イッチー?ホントにどうしちゃったんだい?」
「Aクラスにしておくには勿体無い。彼女とペアを組めたら私はきっと…」
「Aクラス…彼女…。ねぇ、イッチー?」
「なんですか?レン」
「そのレディはどんな子だい?」
「詳しくは知りませんが、聖川さんと長い付き合いのようですね」
「へぇ…聖川と、ね。で、名前は?」
「…レン。やけに食い付きますね。名前は秘密ですよ。私が初めて認めた女性なのですから」
ザワリ。
あのイッチーが認めるレディ。
聖川と長い付き合い。
Aクラス。
俺の中で思い当たるレディは1人。
まさかイッチーを虜にしてたなんて、油断してたな。
まあ、イッチーが聖川から取り上げてくれても面白いけど、やっぱり俺のモノにして見せ付けてやらないとね。
イッチーには悪いけどその恋は実らないな。
ああ、俺のお遊びが終わってからあのレディを慰める役にはもってこいかな?

つくづく俺は聖川が憎いんだなと再確認する。
俺には無い物を持つアイツが憎い…いや、羨ましいんだろう。
分かってるさ。
俺は子供だ。
他の誰かが持つ物が何でも欲しくなる子供。
その「物」になってしまったあのレディには悪いけど、付き合ってもらうよ。


(ターゲット…)
(見つけた、俺の標的)

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