orange | ナノ

5 Brillantemente 

「はじめまして!苗字名前と言います!今日はよろしくお願いします」
「こんにちは!名前ちゃん!HAYATOだよ♪こちらこそ今日はよろしくねっ♪」
キラキラと輝く笑顔を向けられて眩しい。
ぎゅっと握手をされてその勢いに引きつつもその人の顔を見つめる。
そっくりだ。
表情こそ違うものの作りはそのまんま。
一ノ瀬くんだ。
「!今日はトキヤと遊んでくれたみたいだね!ありがとう!」
「あ、いえ。私が我儘言って練習に付き合って貰っただけなので!お礼を言うのはこちらの方です」
「君、優しいにゃ〜!あ、リハ始まるみたい!行こうか♪」
「はい!」
リハは思ったよりスムーズに進んだ。
キラキラオーラを惜しげもなく発してHAYATOさんは歌っていた。
そこに居る誰もが彼に釘付けになっている。
私も負けまいと鍵盤を叩き続けた。
曲が終わると一瞬の静寂の後に拍手喝采。
なんて気持ちいいんだろう。
HAYATOさんがこちらに向かって微笑んでいる。
私も万遍の笑みを返した。
一瞬驚いたような顔をしたHAYATOさんを不思議に思いつつも、その奥に手伝いの手を休めて見学していたまさちゃんたちを見付けて呼びかけた。
「まさちゃん!音也!なっちゃん!」
「名前!良かったぞ。さすがだな」
「うんうんー!やっぱ名前すごいやー!」
「はい〜!とっても素敵でしたぁ!」
3人共褒めてくれて嬉しい。
するといつの間にか横に居たHAYATOさんが話し掛けてきた。
「名前ちゃんのお友達かにゃ?」
「あ、はい!」
「君は確かトキヤの同室の子だよね♪」
「はい!一十木音也です!うわー、ほんとトキヤそっくりだぁ〜」
「こら、一十木!失礼だぞ。すみません。俺は聖川真斗と申します」
「僕四ノ宮那月です!お会い出来て嬉しいです〜」
「今日はありがとう!トキヤの事、これからもよろしくね♪それじゃあ、本番もよろしくね〜♪」
「「「「はい!ありがとうございました」」」」
本番は1時間後。
私は1人、小走りに廊下を歩いていた。
特設スタジオから女子トイレは遠い。
女の子がスタジオ付近に群がるのを防ぐ為でもあるらしい。
普段あまり使われない、全く人通りのない廊下を歩く。
階段を上っていると踊り場に人影。
あれは…
え?
眉間に皺を寄せた
…HAYATOさん、いや、一ノ瀬くん?
でも、衣装はHAYATOさんだ。
私の視線に気付いたのか彼がこちらを向いた。
「あなたは…苗字さん…」
「え?…今、あなたって…」
「!え、あ、名前ちゃん!どうしたのかにゃ〜?こんな所で!」
「…一ノ瀬くん?」
「!?」
「あの…」
「お、弟がどうかした?もう今日は早退したみたいだよ〜?」
「熱、あるんじゃ…」
「え!ね、熱?私は…いや、熱なんか」
「…私、何も聞きませんから。とりあえず、来て下さい」
手を引くとやはり熱い。
熱があるんだろう。
私は気付いちゃいけない事に気付いてしまったのかもしれない。
だけどこの状態で彼を放ってはおけない。
茫然とする彼をぐいぐいと引っ張り、医務室へ連行した。
「解熱剤、飲みましょう。あと冷やさなきゃ」
「…苗字さん。何も、聞かないのですか」
「今は、熱を下げてあげるのが先決です。…HAYATOさん」
力無く微笑んだ彼に私も微笑み返した。
大人しく薬を飲んでくれた。
本番までの少しの間でもと横たわらせて頭やおデコ、首などを冷やす。
「すみません、ご迷惑を…」
「ふふ。HAYATOさん、一ノ瀬くんみたいになってますよ」
「あなたは…意地悪な人ですね」
「あと40分あります。起こしてあげますから、寝てください」
「本当に…すみません」
「おやすみ。一ノ瀬くん」
あっという間に寝てしまった。
眉間に皺を寄せてる。
きっと疲れも溜まってるんだろうな。
学園とお仕事の両立はそんな簡単に出来る物じゃないと思う。
キラキラと輝く笑顔の裏に、葛藤や努力、色々な物を隠しているに違いない。


本番10分前。
体内時計でもあるのかと思うくらいの勢いでHAYATOさんが起きた。
「具合はどうですか?」
「ありがとうございます。大分いいです」
「良かった。あ、熱もだいぶ下がってますね」
おデコに手を当てれば先程の様な熱さは無くなっていた。
視線を感じて下を向くと驚いた顔で私を見ている。
首を傾げていると
「あなたは…不思議な人ですね」
「え?そうかな?一ノ瀬くんの方が不思議だと思うけど」
「名前で…お呼びしても?」
「うん、好きなようにどうぞ」
「ありがとう。では、私の事も同じ様に呼んで下さい」
「…トキヤ、くん?」
「はい。名前、…行きましょうか」
「うん!頑張ろう」
HAYATOの顔になったトキヤくんは、ついさっきまで熱があったなんて感じさせない程に完璧に番組を進め歌い切った。
プロデューサーさんも大喜びだ。
片付けも終わって皆さんが撤退する頃、私服に着替えたトキヤくんがこちらに向かって走って来た。
「名前。今日は本当に、ありがとうございました」
「お疲れ様!お礼なんていいよ。それよりもう大丈夫?」
「ええ。あなたのお陰で。あなたはAクラスだったのですね。聖川さん達と仲が良さそうでした」
「うん、まさちゃんは幼馴染だから」
「そうですか。…あの、学園でもまた一緒に練習していただけますか?」
「え、私?」
「ええ。あなたのピアノ、とても素晴らしかった」
「あ、ありがとう。うん、またやろう」
綺麗な笑顔に出会った。
HAYATOさんとはまた違うけど、彼もまた違う輝きでキラキラしていた。


(キラキラ、キラキラ)
(輝ける人)

prev / next

[ back to top ]

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -