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4 Meraviglioso

「皆ぁ〜!今日はあのHAYATOがこの早乙女学園に来るわよ〜!」
クラス中がざわめいた。
HAYATO…今人気急上昇中のアイドル。
おはやっほーニュースという朝番組の顔だ。
正直な所私はあまり好みじゃない。
彼を見ると作られたアイドルも大変だよね、なんて思う。
そういえば春ちゃんが彼の事が大好きなのだと言っていた。
この学園に入ろうと思ったきっかけが彼なのだとか。
思い出して春ちゃんの方を見ると
…案の定顔を真っ赤にしてそわそわしている。
「ちょっとした収録に来るだけなんだけど〜、人手が足りなくてお手伝いさんが欲しいそうなのよ〜。誰か…」
きゃあー!!
林檎先生の声に被せるように女子から我先にと手が挙がる。
最早悲鳴だ。
私はそれを人事の様に傍観していた。
お手伝いもいいが収録の様子を眺めている方が楽そうだ。
「はいはい!ちょっと皆静かに〜!条件があるのよ!お手伝いさんは4人よ!アシスタントさんのお手伝い2人と、メイクさんの道具運びのお手伝い1人、それから…ピアノの生演奏する勇気のある子」
一気に女子のテンションが下がるのが分かった。
HAYATOに近付けるお手伝いでは無いと分かり、挙がっていた手も下がる。
全く、皆ミーハーなんだから。
「あら〜、残念ね。とってもお勉強になる機会なのに〜」
「リンちゃん!俺やるよ!」
「まぁ!オトくん、ありがと!じゃああと3人ね」
「先生、俺にもお手伝いさせてください」
「わぁ!せんせえ、それなら僕も!お手伝いします!」
「あら!まあくんになっちゃんも!ありがとう、助かるわぁ!あとは一番重要なピアノなんだけどぉ」
「先生、俺は名前を。苗字を推薦します」
「え!ま、まさちゃん!?」
ぼうっとしていたら突然名前を出されて驚いてまさちゃんを見る。
ニッと笑ってこちらを見るまさちゃんと目が合った。
「そうね!私もこれは名前ちゃんにって思ってたのよ〜!ね!決まりでいいかしら?皆はど〜お?」
一斉に拍手が沸き起こる。
ま、まじですか。
ピアノを弾く事は苦じゃない、ただ…
「林檎先生、ピアノって音だけ…ですよね?」
「ん?あ、それがねぇ、後ろ姿だけは映るらしいのよ〜。HAYATO様の後ろで弾いて欲しいんですって」
「え…」
「えー!名前すごいじゃん!テレビに映るんだよ!」
「名前ちゃん!す、凄いです!HAYATO様と同じ画面に映るなんて!ど、どうしましょう!私までドキドキして…」
「ちょ、春歌!あんた大丈夫!?」
皆それぞれの反応だ。
後ろ姿…それならいいか。
私が承諾してお手伝いメンバーが出揃った。

休み時間。
音也、なっちゃん、まさちゃん、私の4人はプロデューサーさんやスタッフさんの元へ向かった。
番組の簡単な説明とピアノ演奏の詳細を聞く為だ。
「君がピアノやってくれる子だね?」
「はい。よろしくお願いします!」
「うん、いいね。度胸がありそうだ」
「は、はぁ」
「はい。じゃ、これが楽譜。君のピアノにかかってるからね」
「ありがとうございます。あ、これ…晴天☆OHA♪YAHHOって…」
「うん。それHAYATOが歌うから、君には横でピアノ生演奏して貰うよ」
「は、はい(うわ、ホントにピアノだけなんだ)」
そうと決まれば直ぐに練習だ。
他の3人は別室で説明を受けてるらしい。
私は特設スタジオに置かれたグランドピアノに向かった。
まだスタッフさんも誰一人居ない。好都合だ。
深呼吸をして鍵盤をポーンと叩く。
いい音。
楽譜に目を通してゆっくりと弾き始めた。
この曲、春ちゃんに聴かせて貰ってて良かった。
ふふ、歌詞も結構分かる。
気分が良くなった私は弾きながら歌い始めた。
正直歌はあまり得意じゃない。音も外す。
でも、元気が出る歌…楽しい。
「スペシャル〜ゴキゲンっで〜、ハッ、ピー、に、なれっる〜♪」
自然と笑顔になってピアノもどんどん弾む。
ああ、やっぱり私はピアノが好きなんだと実感する。
曲の冒頭と締め括りを確認してもう一度弾き始めた。
「せ−いーて〜ん、とーんーでーけーお〜は〜やっほ〜♪」
「クスッ」
「!」
突然聞こえた笑い声にピアノを止めた。
「…?誰?」
「ああ、すみません。あなたが随分楽しそうに歌われていたものですから」
「それは、お見苦しい所を申し訳ないです。えーと…Sクラスの人かな」
「あの…私を、ご存知では無いのですか」
「え?有名人なの!?ご、ごめんなさい」
「っふふ。面白い人ですね。私は…HAYATOの双子の弟、一ノ瀬トキヤです」
「双子…」
「ええ。今日は兄の事をよろしくお願いします。あの、あなたの名前は…」
「あ、ちょうど良かった!」
「はい?」
「一ノ瀬くん、コレ歌ってくれませんか?」
「え…私が、ですか」
「うん。まさかアイドル様にお願い出来ないし、ね!お願いします!」
「…兄の歌はあまり好きではありませんが、まあ、いいでしょう」
「良かった!ありがとう!」
そうして一ノ瀬くんと私は練習を始めた。
双子の弟だという彼は、兄の元気いっぱいな歌をバラードを歌い上げるようにしっとりと歌っていた。
不思議。
こんなに歌い方が違うのに、まるで同一人物が歌ってるみたいに聴こえる。
私の耳がおかしいのだろうか?
弾きながら一ノ瀬くんの方を見る。
眉間に皺が寄ってるのは気のせいじゃないだろう。
兄の歌はあまり好きじゃないって言ってた。
ふと、一ノ瀬くんが顔を上げてバチリと目が合う。
驚いた顔をして歌が止まった。
「どうか、しましたか?」
「えーと。どうかしたわけじゃ、ないんだけど…」
「何か気になる事でも?」
「うーん。…根本が一緒だよね、双子だから?でもいくら双子でも…」
私は1人ぶつぶつと考え始めた。
すると突然…
「っあの、すみません。用があるので私はこれで」
「え、あ!一ノ瀬くん!」
「ピアノ、頑張って下さい」
「あ、うん!ありがとう!」
急用を思い出したのか瞬く間にその場から居なくなってしまった。
一ノ瀬トキヤくん、か。
今度見掛けたらもう一度お礼を言おう。


(不思議な人)
(太陽の様な兄と、月の様な弟)

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