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3 Incontro

「まさちゃん、これ見て」
「ん、これは?」
昼休み、私とまさちゃんは中庭のベンチに腰掛けて静かにランチをしていた。
食事を済ませて寛いでいる時、私はある物を手のひらにのせてまさちゃんに見せた。
「寮に入る前に実家の部屋も整理したんだけど、その時に見付けたんだよね」
「これは…リボン、いや、タイか」
「うーん。よく分かんないんだけどさ、子供の頃大切にしてた宝箱に入ってたんだ。他のは何となく覚えてるんだけど、これだけはどうしても分からなくって。でも宝箱に入れてあったならきっと私にとって大切なものなんだろうなとは思うんだけど」
私が手にしているのは臙脂色のリボン。
小さい子の正装に使うようなタイ代わりのリボンだろうか。
とても触り心地が良く、素人目でも上質なものだろうというのが分かる。
「心当たりは全く無いのか?」
「うん。一生懸命思い出そうとしたんだけどね」
「そうか。まあ、大切にしていたのだろうから、何れ思い出す時が来るだろう」
「んー、そうだよね。とりあえず大事に持っとく」
「ああ、そうしろ」
まさちゃんがふわりと微笑みかけてくれた。
私の大好きな、安心する笑顔。
それに私も答える。
この時間がとても好きだ。
「少し冷えるな」
そう言ってまさちゃんが着ていたカーデガンを私の肩に掛けてくれた。
まさちゃんの香りに包まれて安心する。
「ありがと。でもまさちゃんそれじゃ寒いでしょ」
「俺は平気だ。お前はすぐ風邪をひくのだから気をつけろ」
「はぁーい。分かったよ、お母さん」
「俺はお前の母親ではない」
「へへ。まさちゃん」
「…まったく」
仕方ないなと言いながら手を広げて私を腕の中に収め抱き締めると、ポンポンと背中を優しく叩いてくれる。
小さな頃からこうされるのが好きだ。

ヒュゥッ♪

突然冷やかしの様な口笛が中庭に響いた。
瞬間、まさちゃんの体がグッと強張るのを感じる。
知り合いだろうか。
確認しようと顔を上げようとしたけど、まさちゃんに強く抱き締められて出来なかった。
「何の用だ、神宮寺」
「聖川、お前程真面目なヤツが早速ルール違反とはな」
「お前には関係の無い事だ」
神宮寺と呼ばれた男の子は敵意を剥き出しにする様に話し掛けてきた。
顔は見えないけど低くてよく通る綺麗な声をしてる。
アイドル志望だろうか。
「こんな所で堂々と逢引か?さすがに俺でも学園内で2人きりでこんな事は出来ないな」
「逢引などでは無い。勝手に勘違いしていろ」
「へぇ、随分大事そうにしてるじゃないか。婚約者か何かかい?」
「そんなものではない」
「…まさちゃん」
なんとも言えない険悪な空気に耐え切れずまさちゃんに小さく呼び掛けた。
まさちゃんはハッとして少し体を離し、眉を下げて苦笑いを向けた。
「すまない、名前。ついムキになってしまった」
「大丈夫だよ。まさちゃんこそ、平気?」
「名前…へぇ、レディ。君の名前は名前って言うんだね」
「気安く呼ぶな」
「おお、怖いね。ねぇ、レディ、俺は神宮寺レン。今度一緒にランチでもどうだい?」
「止めろ。お前の周りに群がる女子と行けばいい。コイツに関わるな」
「まさちゃん、教室行こう」
更に不穏になる空気をなんとかしようと立ち上がりまさちゃんの手を引いた。
そして視線を感じて振り向けば目が覚めるような美しいオレンジの髪に、綺麗なスカイブルーの瞳。
吸い込まれそうな程美しいのに、何故かとても切なげで寂しそうに見えた。
それが彼の第一印象。
神宮寺レンと言っていた。
聞いた事が無いからきっとSクラスなのだろう。
既に今直ぐにでもアイドルになれそうな程の輝きを持っている。
「…レディ」
「レディ?誰が?」
「ふっ、はは。君の事だよ、子羊ちゃん」
「は?子羊?」
「君、面白いね。興味があるな…あの聖川が大切に扱う女の子」
「いや、興味持たれても困るんですけど」
「名前、行くぞ」
「ねぇ、レディ。今度お誘いしてもいいかい?」
「遠慮します、さよなら」
「名前、もう話さなくていい」
ぐいぐいとまさちゃんに手を引かれて早足でその場を去る。
暫くして振り返ると彼の周りは既に女の子で溢れ返っていた。
肩に手を置いたり、顔を寄せて囁いたり、異常に女慣れした姿に嫌悪感でブルリと震える。
「まさちゃん、私あの人嫌い」
「ああ。もう関わらなければいい」
「うん、そうする」
「よし、いい子だ」
「もう、またお母さんになってるよ」
「お前が心配なんだ」
「まさちゃん、好きだよ」
「だ、だからそのような事を簡単に…」
「簡単じゃないよ。私なんかに優しくしてくれるまさちゃんが大好きなの。いつも、ありがと」
「ふっ。お前はいつも素直だな。俺もそんなお前が好きだ」
「へへっ」
微笑み合いながら横目に強い視線を捉える。
遠くからさっきの彼がこちらを見ている。
沢山の女子に囲まれる中私に向けられる視線に、更なる嫌悪感が襲うのだった。


(出会う)
(こんな人種、見た事ない)

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