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32 Arancione

目を閉じれば次々と溢れ出す幼い頃の記憶。
レンくんがさっき言っていた言葉は全部、確か私が彼に向けて言った言葉だった様に思う。
子供の私たちにとってはつまらない大人たちの為のパーティー。
まさちゃんに着いて行った私は、とても綺麗でとても寂しげでとても歌が好きな男の子に出会った。
綺麗なオレンジの髪を揺らすその男の子は…

「レンちゃん」
「っ」
目の前でレンくんがその綺麗な顔を歪ませた。
それは辛い苦しいとは違う、どんな顔をしたらいいか分からないって戸惑っている様な顔。
「レンちゃん、また、会えたね」
「名前っ!」
一度溢れ出した記憶は止まらない。
次々と流れ出る、たった1日のあの時の思い出が私をあの日に巻き戻してくれているかの様だ。
レンくんの右手がゆっくりと私の頬を包む。
「キスは…好きな子だけにするんだろう?」
「そうだよ、誰にでもしちゃ駄目」
「なら…俺はキミにキスしてもいいんだよね?」
「!」
そう言いながら私との距離を詰めるレンくんに、私はあの時みたいに子供みたいに声を上げた。
「ほっぺ!それほっぺにだから!」
「っふ、じゃあ、してもいいんだ?」
「!ち、違う!」
「どうして?いいんだろう?」
「駄目!恋愛、禁止って…」
「意味、分かってて言ってる?重要なのはそんな決まり事なんかじゃない。そうじゃなくて…」
「!」
「俺は、好きだよ…名前の事が」
「レンくんっ」
「ねえ…名前は?」
「わ、私は」
レンくんの真っ直ぐな気持ちが伝わって来る。
私の頬に手を添えながら不安げな瞳を向けるレンくん。
その手は心なしか震えている様に思えた。
そっとその手を包み込めば、レンくんの瞳がゆっくりと安堵の色を見せる。
答えなんてもう出てた。
『恋愛禁止』『破れば即退学』なんて言葉がチラついたって、この想いを止める事は出来ないって自覚した。
「好きだよ…レンくんが好き」
「名前っ」
私にしがみ付く様に抱き着いて来たレンくんを受け止める。
触れ合った場所が温かい。
お互いの心音が心地よく響いた。
頬を掠めるオレンジの髪が、幼い頃の記憶をより鮮明に思い出させた。
「要らない人間なんて1人も居ないんだよ」
「そうだね…キミは…俺を必要としてくれる?」
「…そうじゃなきゃ、こんな事しない」
「あの頃みたいに純粋じゃない、こんな俺でも?」
「随分悲観的だね」
「不安なんだ、キミは沢山の人間から必要とされてるだろう?」
「そんな風に思ってたの?でも、私が傍に居て欲しいのは1人だけだよ」
「そっ、か……」
「あれ、不服ですか?」
「まさか。俺はキミだけに必要とされれば、それでいいさ」
「それはそれで嬉しいけど…やっぱりそれじゃ困るな?」
「え?」
「これからもっともっと沢山の人に『神宮寺レン』は必要とされるんだから」
「…名前」


『私、歌を作る人になる!それでレンちゃんに歌って貰うの!』


「ね?レンちゃん」


屈託のない笑みを向けたレンくんの顔が、あの時のオレンジの少年にだぶって見えた。
鮮やかなその髪にそっと指を通せばゆっくりと顔が近付いて…
幼い頃のあの時の様に柔らかい唇が頬に触れた。


(オレンジ)
(キラキラと輝くその色は、
あの時も今も私を魅了する)
END
20140402

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