課題の結果発表の日がやって来た。
ホールに貼り出されているという結果を見に行こうと生徒たちはゾロゾロと動き出す。
私が教室を出ると扉の脇でトキヤくんが待っていた。
「やれる事は全てやりました。行きましょう、名前」
「うん!」
トキヤくんと一緒にホールに入った。
ざわざわと落ち着かないそこでは喜んだり落ち込んだり様々な表情の生徒たち。
そんな中、少し先に茫然としているまさちゃんを見つけた。
「まさちゃん!」
「!!名前…」
「聖川さん、どうかしたのですか?」
「い、いや…お前たち、結果はこれからか?」
「うん。今見に来た所だよ」
話しながら貼り出された紙を見遣る。
トキヤくんと私の名前があったのは…第2位。
そして第1位は…
「レンと七海さん、ですか…」
「!…春ちゃんと、レンくん…」
「すみません、私の力不足です」
「な!何言ってるのトキヤくん!私はトキヤくんのおかげでここまで来れたんだよ!」
「ありがとうございます。ですが、やはり貴女の曲を活かす事が出来るのは…レンなのかもしれません」
「そ、そんな事、ない」
「レンが言っていました…」
「え?」
「貴女のおかげで、貴女を想って、最高の歌詞が出来たと」
「!」
『…おかげでいい歌詞が書けそうだ』
『今回の課題もきっと俺が1位を獲る』
『それも、ペアじゃないキミの協力のおかげでね』
結果はレンくんの宣言通りだった。
ざわめくホールの中、突然ポーンと1音ピアノの音が響いた。
振り返るとステージ上にサックスを手にしたレンくんが立っていた。
ピアノは春ちゃんだったようだ。
恥ずかしそうではあるけれど凄く嬉しそうにしている。
もう一度レンくんを見れば、随分遠い距離なのにしっかりと目が合った。
気付いた女の子たちがステージに駆け寄り、レンくんに一斉に称賛の言葉を叫ぶ。
あっという間に彼の周りは埋め尽くされた。
だけど視線は私に向けられたまま。
逸らす事も出来ず、暴れ出した心臓を抑えようと胸に手を当てた。
春ちゃんのピアノが走り出す。
息を大きく吸ってレンくんが声を乗せた。
マイクなしだというのに私の所までダイレクトに届くレンくんの声。
心が揺さぶられる様な苦しくて切ない歌詞。
これをあのレンくんが書き上げたというのだろうか。
軟派で掴み所が無くて『一途な恋』なんて無縁そうなあの彼が…。
そんな事を考えながらも私はモヤモヤとしていた。
こんなレンくんを引き出せたのは春ちゃんなのだ、と。
認めたくないけれどこれは明らかに『嫉妬』。
それも音楽性の事だけじゃない…
私は苦しくなって少しずつ後退った。
それでも視線は逸らせず、レンくんも真っ直ぐに私を見ている。
苦しい。
また数歩下がった時、背中を軽くトンと支えられた。
驚いて振り向けばトキヤくんが苦笑いをしていた。
「名前」
「な、何?」
「分かりませんか?」
「え」
「…こんな事、言うつもりは無かったのですが…見ていられません」
「トキヤくん?」
「伝わりませんか?レンの声」
「え?」
「あの曲は…他の誰でもない、貴女への想いを込めて歌っているんですよ…名前」
「!」
「七海さんに嫉妬している場合ではありませんよ」
「!!」
「彼にあの曲を歌わせているのは…貴女なんですから」
「…」
「さあ。そろそろレンの目が怖いので、私は戻ります」
「え、ちょっと!トキヤくん!」
「最後まで、聴きなさい」
そう言って私の背中を押してトキヤくんはホールから姿を消した。
私はそのまま立ち尽くしそして、レンくんの声を聴いた。
もう一度、ちゃんと。
…これが、レンくんの想い…
さっきまでの胸の苦しさが形を変えてまた私を襲った。
春ちゃんが最後の一音を響かせて曲が終わる。
女の子たちが一斉に拍手を送った。
直後、ホールに日向先生の大きな声が響いた。
「お前ら何やってんだ!結果見終わったら教室に戻れ!…神宮寺、お前も早くしろよ」
「うん、分かってるよ」
先生の後を着いてゾロゾロとホールを出て行く女の子たち。
レンくんがステージから飛び降りて私を見据えた。
春ちゃんが私に向かってニッコリと微笑んでからホールを後にすれば、残されたのは私とレンくんの2人。
「レディ…」
「…レンくん」
(伝わる)
(それは苦しくて切なくて痛い程に)
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