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2 Bambina

入学式の翌日。
早く目が覚めてしまった私は1人教室でピアノを弾いていた。
最後の1音をポーンと叩くと同時に、誰も居ないはずの教室に拍手が響いた。
ドアからひょっこり顔を出したのは可愛らしいお嬢さん。
あ、昨日自己紹介で困ってた子だ。
名前は、えーと…
「す!すみません!とても素敵な音が聞こえて来て、あの…私…」
「いいよいいよ!そんな萎縮しないで!私、苗字名前!貴方はー…」
「わ、私!七海春歌です!よろしくお願いします!!」
「春海ちゃんか。…じゃあ、春ちゃん!よろしくね!名前って呼んで!」
「名前、ちゃん…」
「あはは!別にちゃんもいらないよ?」
「いえ!そんな!あの…」
「ん?」
「あの、その…わ、私に、ピアノを教えて貰えませんか!」
「え!ピアノ?」
「は、はい。駄目…でしょうか」
「え、いや、あ、嫌なんじゃなくて。春ちゃん弾けるでしょ?」
「わ、私!上手くなりたくて!名前ちゃんみたいに弾けるようになりたいんです!」
「別に構わないんだけど、私なんかに教えられるかな」
「ご迷惑でなければ是非お願いします!」
「迷惑なんかじゃないよ!あー、じゃあさ!これから毎朝この時間に一緒に練習しない?」
「いいんですか!う、嬉しいです!よろしくお願いします!!」
そんなこんなでこの小動物のように可愛い女の子とのピアノの練習が毎朝の日課になった。
パァっと花が咲いたように笑って喜ぶ春ちゃんに、女子力の低い私はクラリとしながらも、これからの朝の楽しみが出来て心が弾んだ。
しばらくするとクラスの子たちが続々と教室にやって来た。
「おっはよー!ってあれえ?春歌、随分早いね」
「あ!ともちゃん!おはようございます」
「あ、貴方。昨日すっごいピアノ披露した子よね!苗字さんだっけ」
「あ、苗字名前です。名前でいいよ。あーっと…」
「私、渋谷友千香。友千香でいいよ、名前!」
今度はとっても人懐っこい子が登場。即お友達になった。
春ちゃんと同室の子らしい。
「名前、おはよう。早いな」
「名前〜!あ、七海に渋谷も!おっはよ〜」
「おはようございますぅ!名前ちゃんぎゅうぅぅうッ!」
「ぐえっ!ちょ、なっちゃん!み、皆、おはよ」
「きゃああ!名前ちゃん、大丈夫ですか!し、四ノ宮さん!名前ちゃんが」
「ああ!名前ちゃんごめんなさい!」
「だ、大丈夫、うん。あはは」
「四ノ宮、加減してやれ」
「名前ちゃん大丈夫ですか?僕またやってしまいました」
「な、なっちゃん!大丈夫だからそんなに落ち込まないで!ね!」
昨日入学したばかりなのにあっという間にお友達が増えた。
皆がライバルとなるこの学園でこんなにも仲間が増えるなんて予想していなかった私はちょっと呆気に取られてる。
皆明るくて楽しくて優しくていい子ばかり。
これからの学園生活が益々楽しみになる。
「まさちゃん」
「ん?なんだ、名前」
「仲間が居るって、素敵だね」
「…ああ。そうだな」
綺麗に微笑むまさちゃんに私もニッコリと微笑み返した。
ふと視線を感じて横を向くと春ちゃんがじっとこちらを見ていた。
「?春ちゃん、どうかした?」
「は!す、すみません!あ、あの…お2人共とても仲がいいんだなと思って」
「あ、私とまさちゃんは小さい頃からずっと一緒なんだ」
「小さい…頃から…」
「へぇ〜!そうなの?まさ、なんで言ってくれなかったの」
「何れ分かると思っていたのでな」
「こんなに可愛らしい幼馴染が居るなんて、真斗君羨ましいです〜」
「そうか?このじゃじゃ馬の面倒を見るのはなかなか大変だぞ」
「ちょ、まさちゃん!余計な事言わないでよ」
「余計な事では無い。これから皆と付き合っていく上で大事な事ではないか」
「酷い!」
皆の笑い声が響いた。
なんて居心地がいいんだろう。
また視線を感じて横を向けばちょっと複雑な表情をした春ちゃん。
私は勘が鈍い方じゃない。
なんとなく分かっちゃった。
この子はもしかしたらまさちゃんの事が…
そう考えたらちょっとだけ胸がチクっとした。
その気持ちがなんなのかはよく分からないけど気づかなかった事にして…
こんなに可愛らしい子のハートを射止めちゃうなんてまさちゃんも隅に置けないななんて思ったり。


(小さな少女)
(可愛いあの子の視線の先には)

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