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27 Anelare-Ren side-

楽しかった、歌う事が。
嬉しかった、キミの笑顔を見れる事が。
心地良かった、俺の名を呼ぶキミの声が。
愛しかった、キミと一緒に過ごす時間が。
伝えたかった、俺のキミに対するこの思いを。

何故、キミは俺の事を思い出してくれないのだろうか。
何故、俺は聖川に勝てないのだろうか。
2人の音楽が認められた事に歓喜する俺を押し退けて聖川に縋る名前を見て、俺の心の中にはぐちゃぐちゃと汚い嫉妬が湧き出した。
その醜い嫉妬で彼女を傷付けてしまいそうで近付く事が出来なかった。
俺はなんて臆病で弱い。
追い打ちを掛ける様に2度目の課題のペアが発表された。
彼女のペアはイッチー。
最も組んで欲しくなかった男だった。
先生たちも酷い事をするよね…

俺の今回のペアであるレディの作る曲は柔らかくて優しくて…少しずつ俺の醜い心の毒を浄化してくれる様だった。
だけど今まで俺が居たポジションにイッチーが居るのだと考えるだけで俺は苛ついた。
だって、そこは俺の居場所だろう?
誰にも譲りたくないんだ。
順調だと思っていた今回の課題は思わぬ形で足踏みする事になった。
原因は…俺。
レディの作った曲を上手く歌えない、表現出来ない。
そんな中いつの間にか曲を仕上げていた彼女に、レディは相談しに行ったらしい。
悪いとは思いながらも俺はこっそり話を聞いた。
そこで聞いた彼女の言葉に、心が震えた。
『私は…春ちゃんの曲とそれに乗ったレンくんの声を聞いた時、羨ましいって思った』
『自分がスランプだったっていうのもあったけど。春ちゃんの優しい音に、レンくんの優しい声が綺麗に重なって…』
『表には出ないレンくんの優しい部分が垣間見れるような気がして…』
極め付けはレディの一言。
『神宮寺さんの事、よく見ていてよく分かってるんですね』
柄にもなく頬が熱くなった。


放課後。
中庭で見つけた、俺の愛しいお姫様。
音楽を聴きながら眠ってしまったようだ。
スヤスヤと寝息を立てるその姿は無防備過ぎるだろう。
誰かに襲われたりしたら一体どうするつもりだい?
キミに触れようとする者は誰だって許さないよ。
キミに触れていいのは俺だけなんだ。
そっと近付いてみれば夢を見ているのかな、口元が何かを伝えようとしているみたいだ。
『あなたの、名前、は?』
薄っすらと開いた唇から漏れ聞こえた言葉に固まった。
まさか、ね?
あの時の夢を見ているだなんて、そんな事。
バクバクと心臓が煩い。
それを誤魔化す様に、手に掛けて持っていた自分の上着をそっと彼女に掛けた。
安心した様に薄く微笑んだ彼女にまた胸が騒めく。

歌いたいと思った。
彼女の事を思って歌いたいと。
歌いたいと思わせてくれた彼女に、この想いを伝えたいと。
俺は寝ている彼女の頬をそっと撫でてからレディの待つ教室に戻った。
そして名前に向けた思いをぶつける様に、一心不乱に一から歌詞を書き直した。


名前…
キミは小さかったあの時も成長した今も
こうやって俺の事を救ってくれる
そんなキミを俺は…


(焦がれる)
(キミの事を想って、俺は歌うよ)

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