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22 Distanza

「名前……名前!」
「え」
「どうした?具合でも悪いのか?」
「大丈夫だよ?」
「何度も呼んだのだが…何か考え事か?」
「全然?そんな事ないよ」
心配そうな表情のまさちゃんに笑顔を見せればホッとした様に微笑んでくれた。
そんなまさちゃんに私は嘘をついた。
課題の結果発表の日から約1週間。
あの日から私はどこかおかしい。
レンくんのあの表情が目に焼き付いて離れないのだ。
『レディ!1位だよ、俺たちの曲』
嬉しそうなあの声から一転、悲しげな表情で呟かれた私の名前。
『……名前』
思い出してまた胸が苦しくなった。

「はいはぁ〜い!皆席に着いてぇ〜」
林檎先生の大きな声で我に返りまさちゃんと離れて席に着いた。
先生は心なしかウキウキしているように見える。
その理由はすぐに明らかになった。
「さぁ!2回目のペア課題が始まるわよ〜」
教室内がざわついた。
何度か行うとは聞いていたけれど、まさかこんなに短期間に詰め込んで来るとは誰も思っていなかっただろう。
私だってそうだ。
更にペアは既に決まっており、この後貼り出されるのだと言う。
ざわざわと落ち着かない中通常の授業が始まり、終了と同時に皆が教室を飛び出した。
一方で私はよく分からない感情に戸惑っていた。
楽しみにしていた1回目の課題のペア発表前とは大違いだ。
そんな妙な気持ちを抱えたまま、まさちゃんの後に続いてペアが貼り出されているホールへと向かった。

「一ノ瀬、トキヤ…」
2回目の課題のペアはまたしてもSクラス…今度はトキヤくんだった。
切り替えてしっかりやらなきゃ。
心の中で意気込んだ所で真後ろから声が掛かった。
「名前」
「トキヤくん」
「貴女とペアになれて嬉しいです。よろしくお願いします」
「うん。こちらこそ、よろしくお願いします」
表情少な目のトキヤくんが優しく微笑んでくれて私の頬も自然と上がった。
差し出された手にそっと手を添えればがっしりとした大きな手に包まれ、笑顔で握手を交わす。
同じ男の子の手なのに、レンくんとは全然違う。
なんておかしな事を考えた頭をブンブンと振った。
今度は彼と、トキヤくんと一緒に音を紡ぐのだ。
「神宮寺さん。あの…よ、よろしくお願いします」
「やぁレディ、こちらこそ」
ごく近くで聞き慣れた2つの声が聞こえてその内容にビクリと肩を揺らした。
ゆっくりと脇に目をやれば、そこには緊張した面持ちの春ちゃんといつものように余裕の表情のレンくんが立っていた。
そこにトキヤくんが歩み寄る。
「レン」
「おや、イッチーじゃないか…ペアは…」
「ええ。念願叶って、名前と出来る事になりました」
「…そう。良かったじゃないか」
「そういう貴方は、七海さんですか」
「こ、こんにちは。一ノ瀬さん」
「七海さん。そちらは大変だと思いますが…お互い頑張りましょう」
「え、あ、はいっ」
トキヤくんと春ちゃんが話している中感じた視線に顔を上げれば、2人を挟んで向こう側のレンくんと目が合う。
心拍数が上がったような気がした。
言葉も出ずに見つめ合う事数秒。
「名前、そろそろ行きましょう」
「!うん、そうだね」
「レディ、俺たちも行こうか」
「っはい!」
春ちゃんの肩に手を添えて背を向けたレンくんから目が離せなかった。
つい最近まで意気投合して一緒に音を作っていたというのに、最早他人かの様に酷く距離を感じた。
戸惑っているのは私だけなのか。
早く切り替えなければと思いながらも、トキヤくんに向き直った私の笑顔はきっとぎこちなかったに違いない。


(距離)
(どんどん離れていく彼の背中)

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