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19 Speciale-Ren side-

そう。
『名前………俺は、レンだよ』

彼女が昔出会った名前という女の子だと思い出してから、俺は彼女の音楽と、俺自身に真剣に向き合った。
突然やる気を出した俺に彼女も戸惑っていたけど、実際俺自身が一番戸惑っていた。
そして、妙に彼女を意識してしまう自分にも。
他のレディと一緒にいるのを見られて、CDを突き付けられた時は肝が冷えた。
ただでさえ嫌悪されていると分かっていたから、益々嫌われてしまっただろうと。
これを挽回する為にも、そしてそれだけじゃなく彼女の為にも、俺は『歌いたい』と思った。
彼女の曲は素晴らしかった。
一晩中聴き続けて一晩中歌詞を練った。
俺の歌詞が彼女の曲に乗った時、なんともいえない気持ちになった。
彼女の曲が俺を包み込んでくれているような。

『貴方を必要とする人は必ずいます。要らない人間なんて、1人も居ないんだから…』
その言葉で俺は、彼女の曲で歌いたいと、彼女と奏でたいと思った。
『本当はキミに言われた言葉で、あの時点でキミの曲で必ず歌うって決めてた』
『俺に、キミの曲を歌わせて』
最早懇願だった。
今更遅いかもしれない、もう見捨てられているかもしれない。
そう思っても、とにかく彼女の曲を歌いたかったんだ。
彼女が…名前が笑う顔を見たい。
聖川にでは無く俺に向かって微笑む、その顔を。

俺の音楽への真剣な取り組みに、彼女も少しずつ柔軟な態度になってくれたと思う。
俺の提案もしっかり受け止め、試行錯誤してくれた。
それが嬉しかった。
一緒に作り上げているのだという実感が持てて。
そしてその中で俺は自分の中にある思いに気付いた。
『貴方を必要とする人は必ずいます。要らない人間なんて、1人も居ないんだから…』
…ならば、
俺が彼女にとって『必要』な人間になりたいと。
他の誰かからでなく、彼女から必要とされたいという思いに。

『レン…くん?』
半ば無理矢理呼ばせた俺の名前。
バクバクと壊れたかのように暴れる心臓
『レン』の後に続くのが『ちゃん』であったら?
そんな期待をしてしまった。
彼女は俺の事を覚えていない。
思い出して欲しかった。

そう、レンだ。
『名前………俺は、レンだよ』
早く、どうか早く思い出して。


(特別な)
(キミだけに呼ばれたいその名を)

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