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18 Nome

昨日のレコーディングは思いの外上手くいって、今日の放課後は更に上を目指すべく調整する事になった。
神宮寺レンは今日の自分の歌に納得がいかないらしく、1人唸りながら暫く楽譜と睨めっこをしていた。
そして私はピアノに向かいながらアレンジを考えている。
「神宮寺さん」
「…」
「神宮寺さん!」
「え、ああ…なんだい?レディ」
「あまり根を詰め過ぎない方がいいですよ」
「心配してくれるのかい?」
「…そういうわけじゃ、ないですけど」
「大丈夫さ」
そう言いながらまた音の確認をし始めた。
けれど残念ながら今日はもうすっかり日も落ちて、そろそろタイムリミットだ。
「神宮寺さん」
「…ん?」
「そろそろ片付けましょう」
「んー…そうだね、そうしようか。ねえ、レディ」
「はい?」
返事をして彼に視線を向けるとバチリと目が合った。
凄く何かを言いたそうだけどなかなか言葉を発しない。
いい案が浮かんだけど言いにくいとか?
何か気に入らない所があるとか?
色々試行錯誤するけれど、彼が何を言いたいかなんてサッパリ分からない。
「神宮寺さん?」
「…レディ」
「はい」
「その言い方…」
「え?」
「その、神宮寺さんっていう呼び方…もう止めないかい?」
「え」
何を言い出すのかと思ったら、彼の呼び名の事だった。
曲に対する事だろうと身構えていたので気が抜けた。
対する彼は真面目な表情だ。
「こうやって一緒に物作りをするペアなんだし、もう少し親近感のある呼び方になってもいいと思わない?」
「はぁ…そう、なのかな」
「それから話し方も。今みたいな感じがいいと思う」
「今みたいな?」
「そう。俺に敬語は要らないって事さ」
「…善処、します」
「敬語になっているよ?」
「…頑張る」
「うん、いいね。で、名前は?」
「名前は別に今のままでも」
「俺は嫌だな」
「!」
嫌だと言った神宮寺レンは、こちらが戸惑う程に酷く困った顔をしていた。
今までずっと『神宮寺さん』と呼び続けて来た上に、心の中ではずっとフルネームを呼び捨てだ。
今更呼び名を変えるなんて難しい。
「レンって、呼び捨てで構わないよ?」
「!名前を呼び捨て!?」
「あれ、そんなに驚く所?」
「それはちょっと、無理かも…」
「んー、困ったね」
「…私も困る」
「一度言ってごらん?」
「!」
「言って見たら案外平気かもしれないよ?」
何故そんなに名前を呼ばせたいのだろうか。
引き下がってくれる様子も無いので、私は覚悟を決めた。
「じゃあ…」
「じゃあ?」
「呼び捨てはやっぱり気が引けるから…」
「うん?」
「レン…くん?」
「!」
「え、あ、駄目?」
「っ否。ははっ、いいね。凄く新鮮な響きだ」
「そ、そう?」
「ああ。ありがとう……名前」
「っ」
『ありがとう』と微笑んだ神宮寺レン…否、レンくんのその表情にドキリとした。
なんて嬉しそうな顔をするのだろう。
そして『レンくん』と呼んだ時、私の中で不思議な何かが生まれた気がする。
それが何なのかは分からないけれど。
ただ『レンくん』という呼び方に違和感があるのは事実。
でもそれは今まで苗字に『さん』付けだったのだからきっと仕方のない事だ。
そう思う。


(名を紡ぐ)
(戸惑う程の笑顔が溢れた)

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