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15 Confusione

神宮寺レンにCDを渡した翌日。
今回の課題に残された時間はあと4日。
私は約束通り自分なりに一生懸命曲を完成させた。
彼がそれに頷かなければ課題のクリアは困難。
私の作曲家の道はそこで終わる。
そんな自分の運命を左右する課題だというのに、昨日の神宮寺レンの行動…迷惑極まりないしふざけ過ぎている。
私のあまりのイライラした様子にまさちゃんが目を丸くしながら声を掛けて来た。
「名前…いったいどうしたのだ。何かあったのか」
「あ、まさちゃん…」
「作曲が進まないのか?」
「ううん、作曲はもう昨日終わったよ」
「そうか!さすが名前だな!!ならば、何故そんなにイライラしているんだ?」
「…ちょっと、ね」
「俺にも言えない事か?」
「違うよ。私、駄目なんだよね」
「ん?」
「神宮寺レンを見てると、イライラしちゃって…」
「…アイツが何かしたのか?」
「んー。きっとあれがいつも通りなんだろうけど」
「…女か」
「うーん、それもあるけど…ただ単に、あんなに才能を持っているのに無駄にして、なんか腹立つ」
「名前がそんなに怒りの感情を露わにするなんて、珍しいな」
「…そうかもしれないね」
「辛い時はすぐ俺の所に来い。話を聞くから溜め込むな」
「うん。ありがとう、まさちゃん」
「ああ。お前は笑っている方がいい」
「ふふ。なんかそのセリフ恥ずかしいよ」
「な!か、からかうな!」
「あはは!ちょっとピアノ弾きにいってくるね」
「ああ。またな」
まさちゃんと別れて、私はピアノのある空き教室に向かった。
その手前の小さめの空き教室を通過しようとした時、中から歌声が聞こえた。
これは…
ドアの隙間から見えたのは、一心不乱に歌い続ける神宮寺レンの姿だった。
この人が歌う所、初めて見た。
勿論歌っている曲は…私が昨日渡した課題の曲。
一晩で作詞もして、全て覚えたとでも言うのだろうか。
歌詞を乗せてほぼ完璧に歌い上げている。
その声の迫力、色気と熱に身震いがした。
「何、急に真面目になってるの…」
小さくそう零して隣の教室に入る。
そしてピアノに向かった。
微かに聴こえて来る歌声に耳を澄まし、それにゆっくりとピアノを合わせた。
私の弾くピアノに、神宮寺レンの声が乗る。
ああ、なんなの…。
悔しいけど、凄く気持ちいい。
夢中になってピアノを奏でていた。
そのせいで隣の部屋の歌声が途切れた事に気付かなかった。
ピアノを弾き続ける私の元に彼は現れた。
「っレディ!!」
ガラリと大きな音を立てて扉が開いた事で、ポンと一音を響かせて演奏を止める。
ドアに目をやれば、何故か苦しそうな表情をした神宮寺レンが居た。
「…別に、向こうでそのまま歌ってて良かったんですよ」
「レディ…」
「そもそも、歌う気になったんですか?」
「…素晴らしいよ、キミの曲」
「…」
「観察だけで、こんなにも俺に合った…俺そのものを現すような曲を作れるなんて!!」
…この人、こんなに感情を露わにする人だっただろうか?
少し興奮気味に語って来る目の前の男に少し身を引くと、目を見開いて私を見た。
自分が興奮している事にも気付かなかったのかもしれない。
普段の余裕綽々な態度は何処にも見当たらなかった。
「ご、ごめん…あの、レディ…昨日は」
「神宮寺さん。歌ってくれるのであれば昨日の事について私はとやかく言いません」
「え」
「人様の恋愛事情に興味はないですから。先生方には言いませんから、程々にお願いしま」
「っ違うんだ!!」
「!?」
言い終える前に突然両肩を掴まれて距離が近付く。
驚いてパッと顔を上げれば、戸惑うような瞳が私を捉えていた。
「レディ…俺は昨日の彼女にはもうデートは出来ないと話していたんだっ」
「は…」
「他のデートの約束も全て断った」
「え…」
「本当はキミに言われた言葉で、あの時点でキミの曲で必ず歌うって決めてた」
「な、何言って…」
「…恥ずかしくて、歌うかどうかは別としてなんて…」
「神宮寺さん?」
今度は私が戸惑う番だ。
この人は急に何を言ってるの?
キミの言葉って何?
「俺に、キミの曲を歌わせて」
この人のこんな姿、見た事ない。
懇願にも似たその表情に、私はただ驚いていた。


(戸惑い)
(分からない、私も、彼も)

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