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14 Avversione

神宮寺レンの居た屋上からそっと抜け出し、林檎先生には申し訳ないけど体調が悪いと言って部屋に籠った。
勿論元気だ。
早く、とにかく早く曲を作りたかった。
あのサックスを聴いてから、あの表情を目にしてから、音が溢れて止まらない。
途中、作曲していて気付いた。
私の心境にも変化がある事に。
それは何かと聞かれても、漠然としていてコレだとは言い切れないのだけど。
昼休みに見た神宮寺レンが影響している事は確か。
彼の表情から伝わる物が伝染したと言うべきか、とにかく作曲に著しく影響していた。
それも不本意ながら凄くいい影響だと思う。
思う所は沢山あるけれど、あの感覚を忘れないうちにと夢中になって作曲し続けた。

「…で、出来たっ」
曲が完成した頃には既に外は暗く、時計は20時を示していた。
ヘッドホンを机に放り投げ、楽譜を持ったままベッドに仰向けに寝転がると…ぐぅと元気のいい音が響く。
「お腹、減った…でも駄目!曲、届けなきゃ」
そう、私にはまだ仕事が残っていた。
神宮寺レンに提示した期限は2日。
今日中に完成させる約束だ。
でもこんな時間に男子寮に行くわけにもいかない。
かと言って、連絡手段を何も持っていない事に気付いて焦る。
そういえば携帯の連絡先も知らない。
まさちゃんと同室だって言ってたけど、まさちゃんを通して連絡を取るのはちょっと気が引ける。
きっとまた面倒な事になるだろう。
でもとにかく今日中には届けないと…。
私は立ち上がって、出来立ての音源の入ったミュージックプレイヤーとCDを手にして部屋を出た。
部屋を飛び出したはいいけど、やっぱりそう簡単に見つけられるはずもなくて…私はトボトボと学園の敷地内を歩く事になった。
暫く彷徨っていると中庭に辿り着いた。
花が咲き木々の立ち並ぶそこは月に照らされて、昼とはまた違った幻想的な雰囲気を纏っていた。
ふと風に乗って人の話し声が聞こえる。
声のする方にゆっくりと近付くと、中央にあるベンチに2つの影。
月に照らされてハッキリと現れたその人を見て私は固まった。
「……やっぱり嫌い」
ほんの少しだけ見直したと思った男は、やはり私の嫌悪の対象だった。
ちょっと派手目の女の子の肩に手を置いて、囁くように何かを話している神宮寺レン。
寒気がした。
私は後ろからゆっくりとそのベンチに近付く。
視界の隅に私を捉えた女の子が驚いて声を上げた。
「!ビックリした!!ちょっと、邪魔しに来たの?」
「え?…!!」
その声に振り向いた神宮寺レンは私を見て目を見開く。
その目は何故か戸惑う様に揺れていた。
「っレディ!!」
「こんばんは、神宮寺さん」
「レディ、あのね…」
「約束の曲が仕上がったので持って来ました」
「レ…」
「デートの後にでも聴いて下さい」
「!!」
「ちょっと!もう少し丁寧に渡せないの!?まったく!」
出来上がったばかりのCDを神宮寺レンに突き付けて、私は踵を返した。
1人いきり立つ女の子を無視してその場を後にした。
嫌いだ。
気持ち悪い。
嫌い、嫌い、嫌い。
何故こんなにも異常な程嫌悪感を感じるのか。
あの素晴らしいサックスの演奏はずっと頭から離れないのに。


(嫌悪)
(せっかく芽生えた心境の変化は呆気なく…)

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