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「おはようレディ。曲は出来た?」
「いや、まだ途中、ですけど…」
朝教室に入ると、私の席に神宮寺レンが居た。
何故?
その前に…
「今日はなんだかご機嫌ですね」
「ん?分かる?」
「はぁ…」
「歌うかどうかは別として、どんな曲を作ってくれているのかなあと思ってね」
「…冷やかしに来たなら帰って下さい」
改心したわけではないらしい。
昨日は別れ際ちょっと優位に立てたと思っていただけになんだか悔しい。
この人が単純でマイナス思考な性格だっていうのは強ち間違ってはいないと思うんだけど。
実際、サックスの音にも出てたし。
そんな事を考えながら荷物を置こうと席に近付くと、後ろからどんと背中を押された。
視界に入ったのは、いつも神宮寺レンを取り巻いている女子の1人。
ああもう、めんどうだな。
どんどん傾く体に体勢を立て直す事も出来ずに諦めていると、前方から近付くオレンジ色。
気付いた時にはそのオレンジの腕の中に居た。
ちょっと、何この少女漫画的なシチュエーションは。
私が安心出来るのはまさちゃんの腕の中だけだし。
こんな事されたって少しもときめかないんですけ…ど…
顔を上げれば至近距離に整った綺麗な顔。
ただ感じる違和感は、彼の表情だ。
「れ、レディ!!大丈夫、かい?」
「へ、あ、はい…ありがとう…」
なんで、顔、紅いの?
瞳は潤んでいるし、口元は引き攣っている。
頬は紅潮して…これじゃまるで少女漫画のヒロインだ。
大丈夫?この人…
「神宮寺さん、熱でもあるんですか?」
「!?」
そう言っておデコを触ろうとすればバシっと手を払われた。
ムカ…。
「っあ、レディ!」
「…本当に、用が無いなら帰って下さい」
いったい何だって言うの。
心配して熱が無いかみてあげようとしたのに手叩くなんて…
ん?心配、して?
なんだか私もおかしいらしい。
神宮寺レンが悪い。

昼休み、また観察しようと神宮寺レンを探しているがどの教室にも見当たらない。
何処かで女子とデートでもしているんだろうか。
ふと聞き覚えのある音が耳を掠めた。
「あ、サックス…」
この前と同じ屋上から聞こえて来る。
歩みを進めるにつれて大きくなる音。
途中分かったのはこれは神宮寺レンではないという事だ。
力強く、情熱的で煽情的で、何かに焦がれている様なそんな音色。
こんな音で曲を作りたいと思った。
次にパートナーになるならこんな音をくれる人がいい!
そう思ったら自然と足が軽くなる。
階段を駆け上がり、呼吸を整えてからそっと扉を押した。
そして私はそこで有り得ない光景に目を見開く。
「…う、嘘」
そこに居たのは神宮寺レンだった。
信じられない。
この間の音色はなんだったのか。
今目の前でサックスを演奏する彼はまるで別人。
溢れ出る感情を音に乗せて、全身で表現していた。
その表情は思わず後退る程の色香を纏い、恋い焦がれ愛しい人を求める様なそんな表情。
あまりの表現力にいい意味で身震いがして、自分の体をぎゅっと抱き締めた。
こんな音を出せるんだ。
ゾクゾクする感覚を身に刻んで音1つ漏らすまいと彼の音楽を拾った。
彼の演奏に触発されて曲を書けるなんて思ってなかっただけにちょっと複雑だけど、きっと満足のいくいい曲が出来る!そんな確信を持てた。


(変化)
(それは突然で、そして戸惑う程の)

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