ついさっき神宮寺レンに啖呵を切ってしまってから私は暇さえあれば彼を観察していた。
取り巻きから煙たがられようとも関係ない。
課題をクリアしなければ私に進む道はないのだから。
まあ、啖呵切る事は無かったんだけどと冷静になった今思う。
『歌わせてみせます』なんて言われたら向こうだってきっと歌うまいと意地になってくるはず。
ただ我慢できなかった。
不本意にも既にアイドルの風格さえ感じさせ、サックスも吹ける、いい素材を持っているのに…真面目に音楽をやる気はないなんて、一生懸命やっている人たちに失礼だ。
何かに意地になってそんな事を言っているならその根源を知らなければ。
『俺の1日、キミにあげてもいいよ』
…デートなんてお断りだけど、彼を知る意味では1日貰っておいた方が良かったかもしれないと今さら思ってみたり。
とりあえず半日観察し続けて分かった事といえば…
1人で居る事が少ない。
周りはほぼ女の子。
男の子で割と仲がいいのはトキヤくんと来栖翔くん。
砂吐きそうなセリフを普通に喋る。
その割にスキンシップは少ない。
…目が、生きてない。
こんな感じ。
分け隔てなく人と接しているから社交的って捉えがちだけど、心は開いてないんだろうなって思う。
「なんだか…寂しい、可哀想な人」
出て来た言葉には同情が込められていた。
「可哀想?俺が?」
「!?」
突然横からヒョイと現れた男に驚いて体を仰け反らせると手を掴まれた。
「大丈夫?驚かせちゃったかな」
「び、びっくりしました…止めてください」
「あまりにキミの熱視線が強烈でね。たまらなくなって来てみたんだけど」
「…気にしないでください」
「それは難しいね」
「…」
「どう?俺の事少しは分かった?」
「まあ、なんとなく、少し」
「へえ…例えば?」
「…女たらし」
「酷いなあ。皆に平等に接しているだけなのに」
「…そんな平等要りませんね」
「はは!…で、可哀想って、何の事?」
急に雰囲気を変えた神宮寺レン。
先程の愛想のいい作られた笑顔は消え失せた。
私からしてみればこんな表情の方が人間味があっていいんじゃないかと思う、そんなイラつく感情を露わにした表情。
「神宮寺さんの事ですよ」
「ふぅん、俺ね…何処が?」
「自分でも分かってるんじゃないですか?何を思って拒絶しているのかは分からないですけど…勿体ないです」
「!勿体ない…か。俺はね、レディ。必要とされてないんだよ…だから一生懸命アイドルを目指すなんて事しなくてもいいんだ」
「そんな事、誰が言ったんですか?」
「分かるんだよ、直接言われなくても周りの考えてる事なんて…」
「貴方を必要とする人は必ずいます。要らない人間なんて、1人も居ないんだから…」
「!?」
「…神宮寺さん、案外単純でマイナス思考な男の子なんですか?」
「なっ!!」
「あ、そろそろ授業始まりますね!サヨウナラ!」
ポカンと呆気に取られたような顔で佇む神宮寺レンを置いて私は次の授業に向かった。
(見つめ、測る)
(彼の真意と彼自身)
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