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9 Impressionante

学園生活にもやっと慣れて来た頃、先生から私たちの課題が発表された。
『1週間でペアと楽曲を完成させ、レコーディングまでを終える』
そのペアは先生方によって決められる。
相性はあると思うけど、どんな人と組んでも素晴らしい物を生み出せないようではこれから先この世界で生き残って行くのは不可能なのだろう。
多くの生徒は不安な表情をしてる。
私はというとこの課題が楽しみで仕方なかった。
ピアノを弾くのは勿論大好き。
だけど、即興で対象物に合った曲を紡ぎ出すのはもっと好きだ。
私のペアになった人にぴったりな、それでいて魅力を最大限に…ううん、それ以上に引き出せる曲を作りたい。
ワクワクする気持ちを抑えられずに前のめりでペアの発表を待つ。
「はいはぁーい!次はー、聖川真斗&七海春歌ペアでーす!」
「ひ、聖川さん!お願いします!!」
「ああ、よろしく頼む」
まさちゃんと春ちゃんがペア。
実はまさちゃんとペアになれるかもってちょっとだけ期待してただけに少し残念。
春ちゃん、顔を真っ赤にして俯いてる。
嬉しいんだろう。
春ちゃんはまさちゃんの事が好き。
きっと凄くいい曲を作れると思う。
私も頑張らなきゃ。
「じゃあ次はー、渋谷友千香&青山良太ペアでーす!」
「えー?先生!青山くんって誰ですかー?」
「青山くんはSクラスの子よ」
「Sクラス?」
「あらやだ!私説明足りてなかったわぁ!ペアはクラス内でってわけじゃないのよ」
クラス中が騒めき出した。
私も例外じゃない。
「シャイニーの意向でね、全生徒をごちゃ混ぜにして決めたのよ」
「先生、その選考方法は…」
「まぁ様、残念だけどそれは教えられないわ」
「…はい、失礼しました」
「ごめんね。じゃあ次ー、苗字名前&神宮寺レンペア〜!」
「!?」
ざわ…
今日一番のざわめきが起こる。
まさちゃんは弾かれた様に私の方を見た。
わなわなと体を震わせている。
私は茫然としながら林檎先生を見る。
「林檎せんせ…もう、決定…なんですよね」
「そうよ、生徒の意思による変更は効かないわ」
「分かり、ました」
「相談ならいつでも乗るからね」
「はい…」
楽しみだった心は一気に落胆した。
こんな事プロになる上であってはならない事なんだけど、何故よりにもよって神宮寺レンなのか。
残りのペアの発表を聞き流しながら今後の心配ばかりが私の脳裏を掠めていた。
休み時間、当然とも言うべきかまさちゃんが凄い形相で私の所にやって来た。
「名前!!お前!っああ、なんでこんな事にっ」
「まさちゃん!落ち着いて!大丈夫だから、ね?」
「大丈夫なわけが無いだろう。俺は心配でどうにかなりそうだ」
「ダメだよ、まさちゃん!まさちゃんには春ちゃんっていうペアが居るんだからしっかり頑張らないと!」
「それは分かっている!しかし!」
「大丈夫、私頑張れるよ」
「名前」
まさちゃんは少し落ち着きを取り戻し、私の頭を優しく撫でてくれた。
依然、表情は険しいままだけど。
その時、教室の入り口が騒がしくなった。
見なくても分かってしまう。
「…来た」
「…神宮寺」
「やぁ、レディ。お邪魔するよ」
「なんでしょうか」
「話があって来たんだ、ペアの事で」
「はい、何か?」
「クス、相変わらずいい反応だね。まあいい…俺が言いたいのはコレだけさ。俺は…真面目に音楽をやる気は無いよ。キミが自由に作って自由にやればいい」
「…なん、だと?」
「…」
「聖川には関係無い事だろう。口を挟むな」
「貴様っ!神宮寺!!」
「まさちゃん!大丈夫だから!」
「名前!お前はどうなる!課題をクリア出来なければっ」
「大丈夫」
「レディ、随分冷静だね」
「言いたい事はそれだけですか?」
「おや、ご立腹かな」
「いいえ、特に何も」
「…ふぅん?まぁ、そういう事だから頑張ってよ、子羊ちゃん」
「はい。頑張りますよ、言われなくても」
神宮寺レンが教室を出て行くとまさちゃんに両肩を掴まれた。
その目は怒りに満ちて…手は震えている。
「名前、俺が学園長に掛け合って来る」
「無駄だよ、まさちゃん」
「しかしこれではお前が!」
「ペアばかりはどうにもならないんだから、私がどうにかするしかないんだよ」
ドォオオオオオオン!!!
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
激しい轟音と共に、教室後方の天井が崩壊して学園長が現れる。
もっと普通に出て来てはくれまいか、後処理をしなきゃいけない龍也先生が可哀想だ。
「Miss.苗字ーーっ!!YOUの言うとおーーーりでっすぅ!!Mr.聖川ぅわー、首を突っ込まないでくだサァアアーイ!」
「学園長!これは神宮寺に非があります!そのせいで彼女が課題をクリア出来ないのはあまりに不条理です!」
「黙りなサァーイ…困難は超えてこそ意味がありまっすぅ。…彼女もどうにかすると言っている。お前がどうこう言う事ではない。口を慎め」
「!!しっ、失礼、しましたっ」
「さて、Miss.苗字。課題をクリアする為にはー、2人の協力が不可欠でっすぅー。Mr.神宮寺と共にクリア出来る自信がありますかァ〜?」
「やります」
「…んん。…いい目だ」
「名前…」
「それでは頑張ってくだサァアーーイ!!」
ドッカーーーン!!!
ああ、今度は床下に消えて行った。
学園長の目、怖かった。
本当はあんな男放置して1人でやってしまいたい。
だけど彼に相応しい曲を作るには不本意ながら彼をもっと知らなければならない。
これから1週間、きっとかなり厳しい毎日になる。
学園長に啖呵切っちゃったし…本気でやらなきゃ自分の未来も無い。
心配そうに私を見つめるまさちゃんに微笑んで、意志を固めた。


(衝撃)
(何故、でも乗り越えなければ…)

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