試合の翌日、私は1人ストバスコートに佇んでいた。
冷たい風が吹き荒んで体が震える。
胸に抱えたボールをぎゅっと抱き締めた。
ボールは大我くんに借りて来た。
バンバンッと2回突いてみれば、乾いた音がコート内に響く。
私はリングをじっと見つめて、ゆっくりとそれを手から放った。
ガコン!!
勿論安定の外し。
いつものバッグボードとガチンコだ。
またかとがっくり項垂れる。
期待はしてなかったけど。
突然、後ろから声が響いた。
「ぶは!お前相変わらずひでぇな」
「!青峰くん!?」
「おー」
「ど、どうしたの?」
「あ?別に。ただ通り掛かっただけ」
「…そっか」
「つかさっきの何だよ。見てろ…こうだよ、こう」
そう言うのと同時、私の横を青色が凄い速さですり抜けた。
綺麗な光の線を描く様に通り過ぎるそれは…
青峰くんが昔初めて私に見せてくれた時のとまるで同じで…
ボールは輪を掠りもせず綺麗に潜り抜けた。
「う、わぁ…」
「昔教えてやったの、忘れたのかよ」
「!?」
「名前」
「え…あ、青峰くん!?」
「前にお前とぶつかった時よ、なーんか初めて会ったって感じじゃなかったんだよな」
「っ」
「名前って名前聞いてなんかピンと来たんだけどよ、お前が何も言ってこねーから確信持てなかったし」
「あ…」
「せっかく俺が教えてやってたってのに…急に来なくなった、バスケが死ぬほどへったくそな女」
「!」
「名前、お前だろ」
「っ、そ…だよっ」
ああ、思い出してくれてたんだ。
ただ純粋に嬉しくて、涙が零れた。
その涙を親指でゴシッと拭われる。
「なんでぶつかったあの時俺がお前に興味持ったのか…今なら分かるぜ」
「青峰くん…」
「大輝」
「え」
「大輝だろ、俺の名前」
「え、うん…」
「昔名乗んなかったからな」
「青峰く、」
「大輝だって」
「青峰くんって言い慣れちゃって、」
「ダメ」
「う…だ、大輝くん…」
「くん?…ま、今はそれで許してやるか」
そう言って笑った青峰くんの表情は、昔出会ったあの青い少年そのもの。
嬉しくて一緒に笑顔を零していれば突然大きな手が私の頬に触れた。
「なあ名前…」
「な、何?」
「…俺、試合に負けたんだけど」
「うん…」
「…慰めてくれんじゃねーの?」
「!!」
「俺、傷ツイチャッタ」
「!棒読み!!」
「チューは?」
「な!」
「くくっ。じゃあどうしたらチューしてくれんの?」
「ちょ!そ、そういう事言うから身構えちゃってっ」
「なんだよ。チューしてくれる気満々だったのかよ」
「!!違!そういう意味じゃなくてっ」
「あー分かった分かった。別にいーし…嫌々されても嬉しくねーっつの」
「…」
片手で頭をガシガシと掻いて視線を宙に向ける青峰くん。
いじけ方、昔のままだ。
可愛いと思ってしまったのは秘密にして、少しだけ青峰くんに近付いた。
「んだよ、その顔は。ニヤけ面隠し切れてねーぞ」
「っふふ」
「ああ?」
壊れてしまったかの様にドキドキと音を響かせて全身を揺るがす心臓。
青峰くんと一緒に居るだけでこんなにも心臓が煩い。
やっぱり私は青峰くんの事が好きだ。
しっかりと再確認して、目の前の青い男の子を真っ直ぐに見つめる。
そうして目と目が合えばその視線は逸らされる事無く…
顔を顰めてほんの少し頬を染めた青峰くんの手を引いて、
精一杯の背伸びをして、
がっしりとした腕に手を掛けて、
「大輝くん」
「な、なんだよ」
「私、大輝くんが好きだよ」
「!!」
そっと小さく囁いた後…
触れるだけのキスをした。
見開かれた青い瞳はあの頃と同じキラキラと輝いて…
きっとこれからも彼は私に光り輝く景色を見せてくれる、そう思わせてくれた。
「…お前、俺より先に言うんじゃねーよ」
「え!?」
「なんかムカつくから言ってやんね」
「え?ええ!?」
「なんでもねーよ!」
「…」
「は!はぁ!?な、何泣きそうになってんだよ!!」
「っ、だって、」
「お、俺だってお前の事好きに決まってんだろ!」
「!」
「!!」
「あ、青峰くんっ」
「大輝だっつってんだろ!次呼んだらチューさせっぞコラ!」
「ええっ!?」
「……あー…クソめんどくせーな」
「…」
「おい名前」
「な、何?」
「言っとくけどな…」
「?」
「お前だから……俺の初恋ってヤツ」
「!?」
END
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