大我くんが帰国した。
ただ連絡を貰っただけで会う事は出来なかった。
何故なら彼は大会に向かわなきゃならなかったから。
今日はウィンターカップ1回戦、桐皇VS誠凛の試合の日。
本来なら私は会場でそれを見ているはずなのだけど、今居る場所はおもちゃ屋さん。
クリスマス前の今日は店内が家族連れで溢れ返っている。
ここでアルバイトをしている友達が熱を出し、急遽代役を頼まれたのだ。
レジ打ちや品出しをしたり、店の前でトナカイの着ぐるみを着て子供たちにキャンディやチョコを配ったり、目が回るほどの忙しさだ。
とりあえずバイト終了後すぐに向かえば、試合が終わる前にはなんとか間に合いそう。
「お疲れ様でした!」
「苗字さん助かったよ」
「いえ。すみませんがお先に失礼します」
「お疲れ様!ありがとうね。機会があればまたお願いするよ」
「はい!」
店長さんに一礼して勢いよく走り出した。
予定より大幅に遅れたけどなんとか会場に到着。
時間はギリギリか、もしかしたら試合が終わってしまっているかもしれない。
息を切らせて階段を駆け上がり観客席へ。
ワッという場内の歓声が体に響く。
さつきちゃんの鮮やかなピンクの髪が目に入った。
そこから視線をずらして得点を見れば99VS100…1点差。
木吉先輩のフリースロー?が外れて、大我くんに託されたボールが青峰くんに弾かれる所だった。
試合時間は残り数秒。
会場中が息を呑んでいる。
今着いたばかりの私でさえもその空気に飲み込まれてしまいそう。
突然、凄い勢いのパスが大我くん目掛けて放たれた。
そしてそれはしっかりと大我くんの手に収まる。
見た事も無いくらい必死の形相の青峰くんが視界に入った。
こんな顔も出来るんだ。
胸が苦しい。
ボールを受けた大我くんが大きく高く跳ね上がり、
大我くんと青峰くんと2人の競り合う声が場内に響いて、
抑え込もうとする青峰くんの更に上、物凄い音を立ててリングに叩き込んだ。
「ピ、ピ―――ッ!!!」
試合、終了…。
誠凛が…勝った。
大我くんに黒子くん、先輩たち皆が喜びを分かち合ってる。
この素晴らしい勝利に私だって本当は飛び上がって喜ぶべき所だ。
だけど私の瞳には茫然とする青峰くんだけが映されていた。
ポカンと宙を見上げて何かを呟いている。
その顔は再会して初めて見る表情。
整列の声が掛かる。
皆が整列する中、大我くんと黒子くんと青峰くんが何か話していた。
青峰くんの口元が少しだけ上がってる。
私の心臓は壊れてしまったみたいにドキドキと高鳴っていた。
黒子くんが青峰くんに向かって拳を突き出す。
ああ、どうしよう。
私、青峰くんが負けて良かったって今凄く思ってる。
恥ずかしそうに黒子くんと拳を突き合わせる青峰くんの顔は、昔見た彼と重なって見えた。
涙が溢れた。
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