青峰くんが誠凛で私を待っていてくれた日から、私たちはまた連絡を取り合うようになった。
って言っても連絡して来るのはほとんど青峰くんだ。
『たまにはお前も連絡寄越せよ』って何度も言われてるんだけど、やっぱりなんとなく自分からはしづらい。
さつきちゃんの話を聞いてから、私は青峰くんの事を覚えてるけど青峰くんはどうなんだろうって事ばかり考えてる気がする。
かと言って真実を聞くのは怖いから、さつきちゃんにも青峰くんに聞かないでって口止めしてる。
まあ、再会した時点で青峰くんがさつきちゃんに何も言ってないんだから…きっと覚えてないんだろう。
…やっぱりちょっと悲しい。
ウィンターカップという大会が近いらしく、さつきちゃんと会う時間は更に無くなった。
だけど青峰くんにはたまに会ってる。
彼が部活に出てない事は明白だ。
最近では部活行かないの?と聞くと、さっきまで普通に話してたのに返事すらしてくれなくなった。
『うるせーな』とか『しつこいんだよ』とか言われてるうちがまだマシだったのかもしれない。
本当に自分の気が向いた時にしか行かなくて、さつきちゃんもお手上げ状態らしい。
2年生の先輩が毎日青筋立てて怒ってて、それを鎮めるのも大変なんだとか。
さつきちゃん、苦労人だ。
「で、今日も部活は行かなくていいの?」
「…それ聞き飽きた」
「…」
「ああ、そういやよ…」
「ん?」
「次の大会、1回戦当たんのお前んとこだから」
「え…」
「お前のカワイイ大我くんを慰めてやる準備しとけよ」
「…1回戦から…」
「テツにも言っとけ。せいぜい悪足掻きしろよってな」
桐皇と誠凛、もっと最後の方に当たるものだと思ってたから正直ビックリだ。
青峰くんは勿論勝つ気満々。
自分が負けるのは有り得ないって思ってる。
だけど私は…
「…」
「なんだよ、その顔」
「私…青峰くんが負けて慰める準備しとく」
「はぁっ!?」
「だから、青峰くんが負けた後、慰めてあげるよ」
「ぶっははは!おま、それありえねーよ!くくっ、ははは!!」
目尻に涙を溜めて大笑いする青峰くん。
青峰くんにとっては有り得ない事かもしれないけど、どんな世界でも何が起こるかなんて分からないものだ。
大我くんのあの力強い意志の込められた瞳を見たら、何かやってくれるって思わずには居られないのだ。
「っはー、笑った笑った。おい名前」
「…何」
「そんな膨れんなって。じゃあよ…」
「?」
「ありえねーけど、もし万が一そうなったらよ…何して慰めてくれんの?」
「…何してって」
「色々あんだろ、慰め方が」
「…いいこいいこ」
「バカにしてんのかおめーは」
「…ハグ」
「あめえな」
「えー」
「チューでもして貰うか。お前からな」
「え!?」
「くくっ、まあそんなのぜってーありえねーから。身構える必要もねーよ」
「…」
「ただ…火神慰めんのにチューすんじゃねーぞ?」
「っ!!普通しません!!」
「ん、よろしー」
「もう…」
青峰くんは笑いながら冗談と本心を吐いた。
笑い話をする目じゃなかった。
『どうせまた…』と諦めたような色を宿す彼の瞳が私の心を苦しめた。
やっぱり私じゃその瞳を変える事なんて出来ない。
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