kirakira | ナノ

桃の記憶

空港。
急遽LAへ短期留学に行く事になった大我くんを見送りに来ている。
昨日は温泉で、帰って来たと思ったらまたすぐバイバイだ。
大我くんは温泉で他校と練習試合だった桐皇と鉢合わせて青峰くんに会ったらしい。
黒子くんも交えてなんだか険悪なムードだったとか。
「悪いな。いつも留守頼んでばっかで」
「気にしなくていいよ。大我くんはバスケ頑張って」
「おう!強くなって帰って来る!」
「うん」
「で、青峰のヤツやっつけてやるぜ」
「…そうだね」
「お前も、桐皇マネと同じ様な顔するんだな」
「え?」
「いや。とにかく、つまんねーだの俺に勝てんのは俺だけだの言ってるようなバカを俺が伸してやる!」
「ふふ、期待してる」
「おう!じゃあな!」
「うん!いってらっしゃい!」
あっという間に大我くんは発った。
『桐皇マネと同じ様な顔するんだな』か…。
思いは同じかもしれない。
青峰くんにバスケを楽しんで貰いたいっていう思い。
さつきちゃんは私なんかよりずっと長く青峰くんと一緒に居る。
きっとその思いは比べ物にならないかもしれない。
だけど、私だってほんの一時でも昔の青峰くんを知ってるから…。
大我くんと黒子くん、誠凛のメンバー皆さんに頑張って貰いたい。
自分で何も出来ないのは凄く歯痒いけど。


「名前ちゃん、青峰くんの事好き?」
「っぶ!!!へ!?」
ある日の放課後、さつきちゃんに呼び出されてカフェで会ってすぐの衝撃だ。
さつきちゃんはなんでそんなに驚くの?と言った表情で私を見てる。
驚くに決まってる。
唐突過ぎる。
温かいココアを持って席に着きながら口元を引き攣らせた。
「名前ちゃんは、青峰くんの事凄く気にしてるように見えるから」
「…気にしてる、か」
「ねえ名前ちゃん」
「ん?」
「昔、青峰くんと会ってる?」
「え!?な、なんでそれ」
「っ当たり!?」
「あ…」
さすがと言うべきか、私が分かりやす過ぎたのかもしれないけどそれだけで決定打になる?
不思議に思ってじっと言葉を待っていると、さつきちゃんがゆっくり語り出した。

-小学生の頃ね、夏だったかな。青峰くんが毎日の様にストバスに行く様になった時期があって。普段からも行ってたんだけど、やけにいつにも増して楽しそうに行く様になったから気になって聞いてみたの。『大ちゃん楽しそう!私も行っていい?』って。そうしたら『やだ。さつきはぜってー来んなよ?』って言われちゃって。今までそんな風に言われた事無かったからちょっと悲しくて泣きそうになったら『別にさつきが嫌なんじゃねーよ。特別楽しい事見つけただけだ』って、凄く嬉しそうに笑って言ったの。暫く経ってからやっと教えて貰えて、バスケが下手くそな女の子に教えてるんだって聞いた時は驚いた。強い相手を見つけては倒しにかかって行くだけのあの大ちゃんが、人に物を教えてるなんてって。『下手過ぎて教え甲斐があり過ぎ』って大笑いしてた。
『アイツすげえおもしれーんだよ』
『今日は俺が教えた事出来たんだぜ!1回だけど』
『あれだけ外せんのも逆にすげーよ』
『アイツ笑うと目が無くなんだぜ?』
『決まったらハイタッチする事にしてんだ』
青峰くんの言葉、よく覚えてる。あんなに楽しそうな青峰くんを見たのは初めてだったから。あんまり楽しそうだからどうしても見てみたくなっちゃって、ある日バレない様にこっそり着いて行ったの。だけどその日そこに女の子は居なくて、ただ待ち惚けしてる青峰くんが居た。それは次の日も、その次の日も一緒で。私は一度もその女の子に会う事は出来なかった。青峰くん暫く落ち込んでたんだけど、時間が少しずつ解決してくれたのかな。いつの間にかまた今まで通り強い人に向かって行く様になって。後からストバス仲間の子たちからの噂話で、その子は急に決まったお家の都合で引っ越しちゃったって聞いた-
「その女の子、やっぱり名前ちゃん」
「…そうかも、しれない」
「覚えてないの?」
「うーん」
「どうして?ちゃんと覚えてるでしょ?あんな色黒バスケバカ他に居ない」
「さつきちゃん。酷い言い様」
「いいのいいの!で、本題!」
「!」
「名前ちゃんは青峰くんの事、好き?」
「…分からない」
「んー、そっか」
「分からないんだけど、前みたいに楽しくバスケして欲しいなとは思ってる」
「名前ちゃん…」
「あの頃の青峰くんの笑顔、好きだったから…って、あ!好きってそういうんじゃなくて!なんて言うか」
「あははは!大丈夫だよ!よく分かった」
「え?」
「私と名前ちゃん、とりあえず昔の青峰くんになって欲しいって気持ちは一緒って事だね!」
「あ…うん」
「あーっと!ちなみに弁明しておきますがー?私はテツくんが大好きなので、青峰くんはただの腐れ縁の幼馴染ってだけでーす!」
「そ、そっか」
「安心したー?」
「え!べ、別にそんなんじゃないから」
「えへへ。ま、いっか…今は」
「…もう」
なんだか完全にさつきちゃんのペースに巻き込まれた気がする。
思いの外弾んだガールズトークであっという間に日は沈んでお開きになった。
帰り道。
さつきちゃんが話してくれた事を思い出していた。
『特別楽しい事見つけただけだ』
青峰くん、いつも楽しみにしてくれてたんだ。
今更だけどちょっと嬉しい。
思わぬ収穫を得てホクホクとした気持ちで寒い家路を急いだ。

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