暗い夜道を歩き続ける私たちの間に会話は無かった。
なのにずっと手は握られていて凄く気まずいのだけど、放してくれる気は無いらしい。
私は手を引かれながら、この間大我くんから聞いた話を思い出していた。
『え、青峰くんが?』
『ああ。中学時代に才能が開花して、もう相手になるようなヤツが居なくなっちまったんだと』
『開花…』
『黒子の話だと、ただ純粋にバスケが好きなだけなバスケバカだったらしいんだけどよ』
『…』
『対戦する相手もあの青峰相手じゃって戦意喪失しちまって、向かって来るヤツも居なくなったらしい』
『そう、なんだ…』
『俺に勝てるのは俺だけ…だってよ』
『え?』
『青峰の頭ン中だよ』
『っ…』
『黒子とはそれまでずっと相棒で、黒子はそんなアイツをどうしても倒したいって…』
『黒子くんが…』
『バスケは楽しいもんだってのを思い出させてやりたいってよ』
『!!』
『まったくふざけたヤツだぜ。練習すればするほどやり合える相手が居なくなるから練習なんかしないとか、俺がぶっ倒してその考え叩き直してやる』
『大我くん…』
そんな事があったなんて。
部活に出なかったり、無気力になってしまった事も少し頷ける。
何も知らない私なんかに部活言った方がいいなんて言われたらさぞかし腹が立っただろう。
さつきちゃんに言われたって出ないくらいなんだから。
『お前には関係ねーだろ、俺が部活出ようがサボろうがよ!』
あの時のキツイ言葉が甦った。
だけど、私の考えは黒子くんと同じ。
私はただ純粋に、楽しそうにバスケをする青峰くんをもう一度見たい。
あの頃見せてくれた笑顔を。
「…おい名前!聞いてんのか?」
思ったより長く1人の世界に入ってしまってたらしい。
依然手を繋いだままの青峰くんが私の名を呼んでいた。
「あ、ごめん…ボーっとしてて。…えーと、何?」
「ったく、ちゃんと聞いてろよ」
「ご、ごめん」
「…全然連絡寄越さねーじゃねーか」
「え、それは青峰くんも一緒でしょ」
何の話かと思えば連絡をしなかった事を咎めているらしい。
あんな気まずい状態で別れたのに普通に連絡出来る程私の肝は据わってない。
だいたい連絡くれなかったのは青峰くんだって同じだ。
暇さえあれば電話して来てたのだって青峰くんだし。
また妙に気まずい空気が流れる中、青峰くんが口を開いた。
「…怒ってんのか?あん時の事」
「え?」
「チューした事だよ」
「!!」
あの日の2度のキスを思い出して、ボッと火が出る様に顔が熱くなる。
間違ってはいないけど言い方が露骨過ぎる!
「ま、謝る気ねーけど」
「!?」
「お前がすっげー怒ってても、俺謝る気ねーし」
「な、何それ」
「どーせ、怒ってんだろ?」
「…別に…怒って、ない」
「は!?……あっそ」
「青峰くんこそあの時、私の言葉にイラっとしたんでしょ?」
「あ?あー、んな事あったか」
「あったよ。でも私だってそれは、謝る気ないから」
「…」
つい言ってしまった。
ドキドキと心臓が煩い。
今度は違う意味で。
また怒らせてしまうかもしれない。
けど、私が青峰くんの何かを変えられるとは到底思えないけど、悪足掻きだけはしたかったんだ。
「おー、そーかよ」
「!…そうだよ」
「変な女」
「なっ!何処がっ」
「何でもいーだろ。つか腹減んね?なんか食いいこーぜ」
「え!?」
「飯!腹減ってんだろ?」
「う、うん」
「決まりな!何にすっかなー、お前なんか食いてーもんある?」
「私?」
「おー。あ、やっぱ決めた。そこのラーメン屋な」
「…私に聞いた意味ない」
「あ?さみーからラーメンでいいだろ」
「ふふ、そうだね。そうしよ」
「何笑ってんだ、おら行くぞ」
「うん」
つい笑ってしまったのはやっぱり懐かしかったから。
何かが変わってしまったのかもしれないけど、やっぱり私の中の青い彼の根本はあの時のままなんだと思う。
それはそうあって欲しいというただのエゴかもしれないけど、また彼にあの頃のような笑顔で笑って貰いたいんだ。
私には何も出来ないとしてもそうなると信じて見守りたい。
だって、繋がれた手から伝わる温もりはあの頃と同じだから。
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