8月31日。
青峰くんと海に行く日。
約束の10時より少し早く着いた私は荷物を抱えて青峰くんを待っていた。
まだ5分前だけど自分から誘っておいてまさか忘れてないよね…
日蔭に身を置いて待っていると10時ぴったり、青峰くんが来た。
「よ!はえーな」
「おはよ」
「お前、そんなカッコもすんだな…いーじゃん」
「!ほ、褒めても何も出ないよ」
今日は暑いし海だしって事で膝丈のワンピ1枚で来ていた。
別に褒めてもらいたくて着て来たわけじゃないけど…ちょっと嬉しい。
電車に乗り込むと、自分のと私の荷物を上に乗せてくれた。
更に席が1つしか空いていなかったので立ったままでいると肩を押されて座らされた。
ぶっきらぼうに優しいなんて反則だと思う。
吊り革に掴まって気怠そうに目の前に立つ青峰くんを見上げていると目が合った。
「あ?なんだよ」
「優しいんだ、青峰くんて」
「は?」
「ありがと」
「んだよ、気持ちわりーな」
「あはは」
途中から空いた隣の席に青峰くんも座り、電話で話すようなくだらない話をしながら時間は過ぎた。
電車に揺られる事1時間強、目の前には海、心なしかちょっと気分が上がってる。
「海なんて久しぶり!!行こ行こ!」
「なんだよ、お前乗り気じゃなかったくせに結構楽しんでんじゃねーか」
「だって!せっかく来たんだから楽しまなきゃ!!」
「ゲンキンなヤツだなオイ」
気付けば自然に青峰くんの手を引いて歩き出していた私。
ハッとして手を放そうとすると逆に強く握り返された。
驚いて隣を見れば『お前、危なっかしいからな』と言ってニッと笑われる。
不意打ちの笑顔は止めて欲しい。
無駄にドキドキする。
砂浜に着いてすぐパラソルを借りてレジャーシートを敷いた。
準備が終わると青峰くんは着ていた服をポイポイ脱ぎ始めた。
海パン1つになった青峰くんの上半身に魅入る私。
健康的な黒い肌に引き締まった胸、腹、腕…
夏の暑さだけじゃない熱が頬に集中した。
「何じっと見てんだよ、スケベ」
「は!?」
「お前も早く脱げ」
「ききき着替えて来る!!!」
逃げる様に更衣室に向かった。
恥ずかし過ぎる!!
着替え終わった。
胸には全く自信が無いけど一応ビキニだ…スカート付きの。
少し心を落ち着けてからパラソルに戻ると青峰くんの姿は見当たらなかった。
辺りをキョロキョロ見回しても見つからない。
こんなに広い所じゃ探しに行っても見つかりはしないだろう。
戻って来るのを待つ事にして、1人浮き輪を膨らました。
…お察しの通り泳ぐのは得意じゃない。
青峰くんはまだかなと浮き輪を持って立ち上がった所で、急に体が宙に浮いた。
というか、担がれた!?
「青峰くん!?!?」
「ぶはは!このまま海突っ込むぞ!」
「ええ!?ちょ!!」
バッシャーン!!!
突っ込むっていうか、ポイって放り投げられた!!
ぎゃぁああああ!!!
う、浮き輪持ってて良かったっ!!!
「〜〜〜っぷは!!!」
「ぶは!っははは!!!」
「酷い!!溺れたらどうするの!!」
「んだよ、お前泳ぐのもダメなのか?」
「ぐっ!何も言い返せない!」
「だはは!だっせーなぁ、ほらこっち来い」
「いい!浮き輪あるもん!」
「あ?そんなもんいらねーよ」
「は?え!ちょっと!!」
何を思ったか青峰くんは私の浮き輪をスポっと取り去って、沖の方に向かって放り投げた。
と同時に不安定になる体。
「あああッ!!」
「来い!沈むぞ!」
「ぎゃぁ!沈む!死んじゃう!」
「ぶは!ほら来いって」
「!!」
腕を引かれたと思ったら正面から青峰くんに抱えられた。
急に近付いた距離にドキっと胸が跳ねる。
だけならまだしも、密着して触れてるのはお互いの素肌。
焦って距離を取ろうとジタバタもがくと、抱える腕に力が込められた。
「バァカ、沈むぞ」
「!だ、だって」
「ん、お前おっぱいねーな」
「な!!〜っ!最低!離せ!バカ!!」
「あ?放していーのか?」
「ややややっぱダメ!!」
「ぶっは!お前すげーおもしれーな」
「酷い!」
「ちょっと落ち着けよ、ほら」
「落ち着けって…もう、はぁ…」
おっぱいねーなって…そ、そりゃ大きいとは言えないけど。
酷い。
けど散々馬鹿にされて貶されたのに…なんだか楽しくて懐かしくて擽ったくて、嬉しかった。
こんな風に無邪気にじゃれ合ったのはあの頃以来。
って言っても覚えてるのは私だけだけど。
急に大人しくなった私に青峰くんは首を傾げて聞いて来た。
「なんだよ、どーかしたのか?」
「なんでもないよ!」
「ビビッて声も出ねーのかと思ったぜ」
「もう…ねえ、今度は泳ぎ方教えて」
「はは!カキ氷で手打ってやるよ」
「分かったから、急に放さないでよ!ホント死んじゃう!」
そう言って少しだけ自分から青峰くんにしがみ付いた。
『今度は』って言った事、きっと気付いてないんだろうな。
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