「こんにちはー!」
「お、名前!」
「名前ちゃんいらっしゃい!」
「リコさん、お疲れ様です!」
夏休み半ば位から、私は誠凛高校バスケ部にたまに顔を出すようになっていた。
宿題も終わってだいぶ暇を持て余していたので大我くんに誘われたのだ。
今日は午前中用事があったので午後から顔を出した。
お邪魔する時はレモンの蜂蜜漬けを持って行く事にしている。
「うめえ!うめえよ名前ちゃん!やっぱレモンは、ぐはっ!!」
日向さんの言葉はリコさんの鉄拳によって途絶えた。
私がレモンの蜂蜜漬けを持参するようになったのは日向さんからの要望でもある。
大きな声では言えないけどリコさんの作る物はなんでも凄まじいのだとか…
レモンがまるっとそのまま入っていると聞いた時はリコさん可愛い!なんて言ってしまったけど、日向さんは顔を青くして真顔で『あれはそういう次元じゃない』って言っていた。
そして他の皆さんも同じ反応…。
日向さんたちにいったい何があったんだろう。
なんだか聞いちゃいけないような気がするので聞かないでおく。
あっという間に練習は終わった。
私はご存知の通り自分でやるのは苦手だけど人のプレイを見るのは好きだ。
1日見ていても飽きない。
だから今日も凄く楽しかった。
暇つぶしというよりもむしろ、練習を見たり試合観戦する事が趣味になりつつあるのではと思う。
厳しい練習を終えて部室から出て来る皆さんに労いの言葉を掛けつつ、大我くんを待った。
「名前!わりぃ、遅くなった」
「お疲れ様!」
「帰るか」
「うん」
2人並んで帰り道を歩く。
大我くんがポツリと話し出した。
「あー…言いそびれてたんだけど…」
「ん?」
「こないだは、サンキューな」
「こないだ…あ、お祝いの事?」
「ああ。すげえ楽しかった…邪魔は入ったけど」
「喜んで貰えて良かった!邪魔って…まあ、ね、あはは」
「名前…お前、青峰と前から知り合いなのか?」
「え?な、なんで?」
「いや…結構普通に喋ってるだろ?女子から見たらアイツって怖いイメージとか無いのか?」
「確かに怖そうだけど…桐皇戦でね、私青峰くんと通路でぶつかって転んだんだけど…引っ張り上げてくれたりして…」
「青峰が…意外だな」
「そう?」
青峰くんと出会ったのはそれが初めてじゃない。
私は大我くんに昔の話を出来なかった。
懐かしい楽しかった思い出を、自分だけの物として取っておきたかったからかもしれない。
ああ…大我くんに1つ隠し事をしてしまった。
3車線の大通りを歩いていると反対側の歩道に青とピンクを見つけた。
あれは間違いなく
「あ。あれ桐皇マネと青峰だよな」
「うん、そうだね」
2人はいつものように言い合いをしながら歩いていた。
さつきちゃんが頬を膨らませて怒っている。
きっとまた部活の事なんだろう。
ふと、青峰くんがさつきちゃんの腕を引いて2人の場所が入れ替わった。
その直後、青峰くんの横を猛スピードの自転車が通る。
…あ、そうか。
青峰くんはさつきちゃんが危なくない様に場所を代わってくれたんだ。
優しい所もあるんだなと思いつつ、少しだけチクリと胸が痛んだ。
幼馴染って言ってたけどやっぱりその存在は凄く大切な物なんだろう。
大切な…私には無い絆みたいな物。
いいな、なんて思ってしまった自分に焦る。
きっと私、青峰くんの事が気になってる。
「名前?どうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ」
「?…しかしアイツら喧嘩ばっかだな」
「そうだね」
「でもやっぱ、喧嘩する程〜ってヤツなんかな」
「…そうかもしれないね」
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