kirakira | ナノ

懐古

8月になった。
長い夏休み真っ只中だ。
さつきちゃんとは連絡を取っていてたまに会ったりもしている。
ちなみに青峰くんからのメールは来てない。
待ってたわけじゃないけど聞いておいて放置って意味が分からない。
さつきちゃんによると練習も出ていないらしい。
まあ、ぶっちゃけ私には関係ない事なんだけど。
だって青峰くんとは1ヶ月前、たまたまぶつかって遭遇して数回話しただけの関係。
小学生の時の事だって私が勝手に覚えてただけで、彼にとってはきっと記憶に残る様な出来事じゃなかったって事だ。

大我くんがバスケ部の合宿から帰って来た。
また一段とがっしりした気がする。
そして、顔付きも変わってた。
何も言わないけどきっといい傾向なんだろう。
青峰くんと、もう1人の有名な強い選手が戦ってるのを見て触発されたんだとか。
青峰くんの事もさつきちゃんから聞いた。
肘を痛めた事を監督に言っちゃったから青峰くんと喧嘩したって言ってた。
その後どうしたのかは知らない。
酷い怪我なのかな?
…だから私には関係ないんだってば。
お母さんから頼まれた買い物を済ませた帰り道、1人百面相だ。
ふと遠くから、掛け声や笛のような音が聞こえて来た。
きょろきょろと見渡すと、少し先のストバスコートに人が沢山集まってる。
よく見れば見知った人が多数…
大会でもあったのかな?
あ、大我くんだ。
「名前!」
「お疲れ様!」
「買い物帰りか?」
「うん。今日大会だったんだね」
「おー。すげえ面子だった」
「なんか見た事ある人多いなと思ってたよ」
「袋持つから、一緒に帰ろうぜ」
「ありがと」
もう解散はしてたらしく1人でこっちに来た大我くんと一緒に帰る事に。
コートの入り口が騒がしい。
『火神っち!?』とか大きな声聞こえたけど、当の大我くんは完全無視だ。
さつきちゃんが向こうで手を振ってくれたので笑顔で振り返す。
嬉しそう。黒子くんと一緒に居るし。
黒子くんは少し先でペコリとお辞儀をして、さつきちゃんと一緒に帰って行った。
さつきちゃん、良かったね。
手元の荷物が丸々、大我くんの手に渡った所で思わぬ人から声が掛かる。
「よぉ、名前」
「ん?」
「青峰?」
「え!?」
「なんでお前が名前の事呼び捨てしてんだよ」
「あ?いーだろ別に。つかお前らやっぱ付き合ってんの?」
「そういうんじゃねえ。近所なんだよ、マンション同じ階で」
「そういう事。大我くん帰ろう」
「あ、おお」
「おいおい、そんな急いで帰んなくてもよくね?」
「お前はいつものマネと帰ればいいだろ、青峰」
「あ?さつきはもう先帰ったっつの。お、そうだ。お前なんでメール寄越さねえんだよ」
「え?」
「さつきが待てっていうから待ってやってんのによ」
「何言ってんの?」
「は?だから、お前からメール来ねえと出来ねーじゃねーか」
「…私、青峰くんに私のアドレス教えていいかって聞かれただけで、青峰くんのアドレスは聞いてないけど」
「はぁ!?」
「…さつきちゃんってば」
「さつきのヤツ…わざとか、あんのやろ!!」
「あはは!青峰くんが部活出ないからじゃないの?」
「…ぜってーわざとだな!くっそ、しょーがねえな。名前、今教えろ」
「え、さつきちゃんに聞いて」
「はぁ?なんで目の前にいんのにわざわざさつきに聞かなきゃなんねーんだよ」
「勝手に教えちゃったらさつきちゃんに悪いし」
「関係ねーよ!携帯寄越せ!」
「え!あ!ちょっと!青峰くん!?」
バッグから覗いていた携帯をヒョイと取られて、勝手に操作し出した青峰くん。
大我くんは荷物を持ちながらポカンとした表情で私たちを見ている。
「青峰と名前、なんでそんな仲良くなってんだ?」
「え?仲良く?」
「俺空気なんだけど」
「私、仲良くなった覚えないんだけど」
「いや、だいぶ会話弾んでるだろ。あの青峰と…」
「ん、出来たぜ?ほれ、俺の入れといたから今度こそメール寄越せよ?」
「え?私から!?私のアドレス登録したんじゃないの?」
「お前からしてくんの待っててやるって言ってんだよ」
「何その上から目線。ま、しなくても悪く思わないでよね」
「あ?してくんだろ、ぜってえ」
「自信過剰!」
「それから、青峰くんっての止めろ」
「ええ!?さつきちゃんもそう呼んでるじゃん」
「さつきは関係ねー。いいか、大輝だからな、だ、い、き!」
「いや、無理です」
「はぁ?ぜってえ呼べよ!じゃーな」
「え!あ!ちょっと!!」
「…なんだアイツ」
「…分かんない」
遠ざかる大きな後姿を見ながら首を捻る。
この妙にしっくり来る感じ。
私、さっき懐かしいって思った。
話し方は昔と変わってないんだ。
ちょっとだけホッとしてしまった自分に気付く。
昔を思い出して不思議な感覚に包まれながら、大我くんと一緒に家までの道を歩いた。

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