青峰くんの居る桐皇学園との試合に負けてしまった誠凛は、その後続く2戦とも負け越してしまった。
大我くんとは桐皇戦の帰りに一緒に帰ってから、なんだかぎこちなくて今までみたいに話せない。
学校には来てるし、同じクラスなんだから勿論教室にだって居る。
黒子くんも『ちょっと話し掛けにくいです』って言ってた。
正に暗雲の6月が終わり7月に入ったある日、突然桃井さんから連絡が来た。
そういえばメアド交換してたっけと思い出す。
『こんにちは!良かったら今日お茶しない?部活休みなの!』
帰宅部で特に予定もない私は了承のメールを返し、残りの授業を消化した。
「突然ごめんね!来てくれてありがとう!」
「ううん、気にしないで」
桃井さん、可愛いな。
私は目の前に座る彼女をまじまじと見つめてしまった。
だって彼女、完璧過ぎる。
「ん?どうかした?」
「な、なんでもないよ」
「そう?あ、あのね!今日は相談があって…」
「相談?私に?」
「うん!テツくんの事なんだけど」
「テツくんってさ、黒子くんの事?」
「そ、そう!私ねっ」
「黒子くんの事、好きなの?」
「ええええええええええっ!?!?」
「ちょ!」
「ななななんで分かったの!?凄い!名前ちゃん凄い!!」
「い、いや…だって相談とか、ま、いいや。で、黒子くんがどうしたの?」
「彼女とか、居ないよね?」
「うーん、見た感じ居ないと思うけど」
「っ良かった!!」
「桃井さん、凄く可愛いんだから何も心配する事ないと思うんだけど」
「心配だらけだよ!テツくんすっごく可愛いしかっこいいし優しいしもう大変だよ!女の子が放っておかないよ!!」
「も、桃井さん、落ち着いて…」
「う、あ、ごめんね」
「大好きなんだね」
「うん。私、青峰くん追い掛けて桐皇入っちゃったから…テツくんとは離れ離れになっちゃって」
追い掛けて…
桃井さんは黒子くんを好きなのに青峰くんを追い掛けたの?
なんで?
素朴な疑問だ。
私の中に妙なモヤモヤが生じているのはとりあえず無視しておく。
「…そうなんだ。でもなんで黒子くんの事追い掛けなかったの?」
「青峰くんは幼馴染なの」
「幼馴染?」
「うん。小さい頃からずっと一緒でね。あ、昔はもっと可愛かったんだよ?ただちょっと色々あってあんな感じになっちゃって…放っておいたら何やらかすか分からないから」
「…昔は、もっと笑ってた?」
「え?」
「え、あ!なんでもない!」
「うん?でもまあ、私が居た所で言う事も聞いてくれないし、あんまり変わらないんだけどね」
「そうかな?幼馴染ってやっぱり特別だと思うよ?他人に分からなくても、分かり合える事とかあるでしょ?」
「うーん。青峰くんは単純だからね、バカだし。考えてる事なんて誰にでも分かるよ」
「あはは、酷い言われ様」
「いいのいいの!あ!そうだ!!名前ちゃん!」
「ん?」
「青峰くんに連絡先教えてもいい?」
「…ん?ええ!?」
「今日のもう1つの目的、忘れる所だった!!」
「な、なんで私?」
「青峰くんが煩いのよ。顔合わせる度に教えろ教えろって」
「え、意味が分からないんだけど」
「うー、教えてもいい?いい?あのね、聞いて来たら部活出てくれるって言うのよ」
「部活?…出てないの?」
「うん。先生も青峰くんに対して甘くて、部長も勝てばいいなんて言ってるし…勿論私の言う事なんて聞かないしね」
「…大変なんだね」
「…駄目かな?」
「うん。いいよ、桃井さんがそれで楽になるなら」
「ほ!ホント!?名前ちゃんありがとう!!」
「わ、ちょ!桃井さん!!」
上半身を乗り出して抱き付いて来た桃井さんにぎゅうぎゅうされる。
胸、胸!!
周りの他のお客さんも何事かとチラチラと見ている。
やっと落ち着いた桃井さんは今度は改まって私を見た。
「名前ちゃん、さつきでいいよ」
「え?」
「桃井さんじゃなくて、さつき!」
「さ、さつきちゃん?」
「うん!私、青峰くんみたいなのと一緒に居るから女の子のお友達少なくて…名前ちゃんがお友達になってくれたら嬉しいなって」
「さつきちゃん…」
本当になんて可愛らしい女の子なんだろうか。
これでマネをやらせたら頭もキレるし仕事も出来るなんて、そんなの完璧超人だ。
こんな子が幼馴染なんて青峰くんは幸せ者だと思う。
「さつきちゃん、今度はいつ会おうか?」
「っ名前ちゃん!!」
嬉しそうに微笑むさつきちゃんにつられて私も微笑んだ。
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