後半戦。
大我くんと青峰くんは何度も対峙した。
だけど、青峰くんのシュートは決まっても大我くんは決めさせてもらえなかった。
青峰くんに翻弄される誠凛。
ゴールの裏からシュートを決めた青峰くんは、やっぱりあの頃の青峰くんじゃない。
全然、楽しそうじゃなかった。
懐かしいと思えたのはそのフォームだけ。
大我くんが下げられてしまってからは一方的な展開だった。
タオルを被って悔しそうにしてる大我くんを見てるのが辛い。
皆諦めずに一生懸命頑張ってるけどきっとこの試合は…
ブザーが鳴り響いてスコアボードを見れば112−55という大差。
誠凛の皆は茫然としていた。
青峰くんはやっぱり険しい顔をしてた。
険しい?…悲しい?
遠くてはっきりとは見えないけど、勝ったっていうのに落胆している様に見えるのは気のせいじゃないと思う。
試合終了後、私は1人外で大我くんが来るのを待っていた。
正直なんて声を掛ければいいか分からない。
俯いていると今日何度目かの声が響いた。
「お!よぅ、水色パンツ」
「…その呼び方もう止めて」
「いいじゃねえか、当たってんだろ?つか名前知らねえし」
「…」
「お前、名前なんつーの?」
「…苗字…」
「おい!名前!!」
「……名前?」
「あ、大我くん…」
「なんだよ火神、コイツやっぱお前の女か」
「あ?何言ってんだ。名前、帰ろうぜ」
「…へぇ」
大我くんが私の手を掴んだのを青峰くんは目を細めて見ていた。
そして低く唸るような声で言った。
「女と遊んでる暇あんならもっと俺を楽しませる為にせいぜい頑張れよ…大我クン」
「っんだとコラッ!」
「たっ大我くん!!」
バシッ!!
「いってぇ!!」
「青峰くん!!何やってるの!!」
「ってぇな、さつき!」
「試合終わったんだからもう問題起こさないで!…あ、貴方!」
「あ…」
青峰くんを引っ叩いたのはあの時のピンクの女の子だった。
「青峰くんがごめんね。何もされなかった?」
「ああ?なんもしてねーよ」
「だ、大丈夫」
「良かったぁ!何かされたらすぐ私に言ってね!」
「おめーは母ちゃんか」
「あ、私桃井さつき!今日は本当にごめんなさいね!ぶつかった所、大丈夫?」
「うん、なんともないよ」
「そっか!ねえ、これも何かの縁だし…メアド、交換しない?」
「え…私?」
「うん!駄目?」
「名前、帰ろうぜ」
「大我くん?」
「そいつは桐皇のマネだぜ?しかも得意技はデータ収集」
「あ!酷いですよー!ただお友達になりたいなって思っただけなのに」
「よ、良かったら…交換しよ」
「え!いいの!?」
「うん」
「嬉しい!ありがとう!!」
「おい、さつき!とっとと帰んぞ」
「分かってる!ちょっと待って!!」
桃井さんと私はアドレスを交換した。
私は狡賢い人間だ。
青峰くんの彼女らしい桃井さんから、青峰くんの事を聞きたいって思ってしまった。
どうして今の青峰くんになってしまったのかを…
青峰くんと桃井さんは口喧嘩をしながら帰って行った。
残された私と大我くんは未だ動かずに居る。
大我くんは青峰くんの後ろ姿を鋭い目で睨む様にして見ていた。
「…帰ろう」
「…ああ。名前」
「ん?…え」
名前を呼ばれて顔を上げたら、突然大きな体に包み込まれた。
ぎゅっと抱き締めて来るその手は僅かに震えてる。
「大我くん」
「悪い、ちょっとだけ…このまま…」
「…うん」
何も言ってあげられなかった。
掛ける言葉が見つからない。
大我くんが落ち着くまで、大きな背中に手を回してただぎゅっとしてあげる事しか出来なかった。
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