kirakira | ナノ

青の輝煌

あの日見た、
キラキラと輝く少年の笑顔を
私は忘れる事なんて出来なかった


どんよりとした分厚い雲が空を覆う6月のある日。
苗字名前は誠凛高校の制服に身を包み、校舎へと続く道を歩いていた。
「おす、名前」
「あ、おはよう、大我くん」
後ろから声を掛けて来たのは火神大我。
名前のクラスメイトであり、名前の住むマンションの同じ階に越して来た帰国子女だ。
独り暮らしの火神を心配して名前の家族は何かと世話を焼いている。
それもあってか2人が打ち解けるのに時間はかからなかった。
「苗字さん、おはようございます」
「うわっ!ご、ごめん!おはよう、黒子くん」
黒子テツヤも同様にクラスメイト。
火神を通して知り合ったこの影の薄い少年はその火神の相棒でもある。
…バスケット。
そう聞いて名前がまず思い浮かべるのは名前も知らない青い少年。

あれは小学3年生の頃。
ジリジリと照り付ける太陽が眩しい夏の日の事だった。
新品のバスケットボールをぎこちなく抱え、公園内にあるフェンスに囲まれたコートの中央にポツンと立っている名前。
何故か…
走るのは好きだったがあまり球技が得意で無かった名前は体育の球技選択でバスケットを選んでいた。
野球やテニスなどの道具に当てる類の物はからっきし駄目だったのだ。
だから消去法で渋々バスケを選んだというわけだ。
そして出来ないくせに負けず嫌いというなんとも面倒な性格の持ち主。
1人練習にやって来たのも頷ける。
とりあえずやってみるかと、上手な子のやり方を真似てフリースローラインと呼ばれる線からボールを放った。
ポンッポンッ…コロコロコロ
掠りもしない。
顔を引き攣らせながら数歩前に出てまたボールを放つ。
ガコンッ
「…」
バックボードの角に当たって虚しく跳ね返って来た。
更に数歩前に出て今度は入れ入れと集中して放つ。
ガンッ
リングに当たったボールは放った本人の頭上目掛けて戻って来た。
「うわっ」
驚いて身を屈めればボールは名前を通過し、地面に落ちて転がり続ける。
体勢を直して振り向こうとした所でボールを突く音がした。
それと共に聞こえて来たのは…
「ぶっ、くくくっ!あっはははは!!」
遠慮の欠片もない笑い声。
見られていた!
名前は恥ずかしくて振り向く事も出来ずに立ち尽くしていた。
それにしてもなんて失礼なやつ、そんなに笑わなくてもと思う。
暑さのせいでなく顔を赤くして俯いていると、突然すぐ傍を風が吹く様に通り過ぎる何か。
バッと顔を上げた瞬間、視界に飛び込んできたのは
青い少年。
キラキラと滴る汗を拭おうともせずゴールに向かって流れる様に走る。
そしてニッと口端を吊り上げて名前を見ながら軽くボールを放った。
直後、
パシュッ
気持ちのいい音を立ててボールは輪を潜る。
「う、わ…」
名前は笑われた事などすっかり忘れて茫然と魅入っていた。
いったい何に?
シュートに?フォームに?
確かに凄かったけれど違う。
彼女が魅入ったのは彼の『笑顔』だ。
綺麗に着地したその少年はポカンとする名前を見ると、顔をクシャっとさせてまた微笑んだ。
「お前、へったくそだな」
「なっ」
見惚れたのも束の間、その純粋な笑顔に似合わず彼は遠慮なく毒を吐く。
負けず嫌いが発動し、何か言い返そうと身を乗り出した所で名前に向かってボールが放られた。
「わ、なっ、なに!?」
「ほらっ、やってみろよ」
その日、日が暮れるまで練習に付き合ってくれた。
そう。
これが、名前も知らないその少年との出会い。

prev / next

[ back to top ]

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -