「俺チーム寮には住まねーから」
「ええ!?」
その言葉に驚いたのは私だけで、目の前に座るご両親は何故かニコニコ微笑んでいる。
わけも分からず呆然とする中、私はお母さんの言葉に更に驚く事になる。
「大輝、名前ちゃんに迷惑掛けるんじゃないよ?」
「え」
「わーってるよ」
「それから一緒に暮らすからには、ちゃんとしなさいよ?」
「へ」
「わーってるっつの!」
「お父さんからは?何か無い?」
「んー。泣かすんじゃないぞ、大輝」
「おー」
「ええっ」
あっさり…。
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
会ってすぐの私と自分たちの息子がいきなり一緒に住むだなんて、こんなあっさり許してしまうものなんだろうか。
ていうか一緒に暮らすなんて私だって聞いてない!
呆けた顔で大輝を見つめる。
「なんだよ、その顔」
「…だって…こんなの、知らない」
「そりゃそーだろ。黙ってたんだからよ」
「お、お父さんとお母さんだって」
「あ?お前の事は高校ん時から話してあんだよ」
「…え?」
衝撃の事実だ。
高校の時っていったい…
「名前ちゃんの事はね、大輝が1年生の時から聞いてたのよ」
「1年生!?ですか!?」
「うん。『すげー好きな女居るから、俺そいつと結婚するから』なんて真面目な顔して言うもんだから笑っちゃったんだけどねぇ」
「おい!!余計な事言うんじゃねーよ!!」
「いつになっても連れて来ないし、写真だって見せてくれないしね。どんな子なのかしらって思ってたけど、こんなに素敵な女の子なら大歓迎ねぇ」
「っ!」
「ねぇ、お父さん?」
「ああ、大輝には勿体ないな」
「るせーぞ親父!」
「大輝も隅に置けないわねー」
「黙れよババア!」
「ちょっと!コラ大輝っ!!なんて事言ってるの!!」
「ああ?」
「うふふ。馬鹿な大輝には名前ちゃんみたいな子がぴったりだわ!名前ちゃん、大輝の事よろしく頼むわね」
「っ!そ、そんな!こちらこそ!」
「ったく…自分の息子をバカ呼ばわりすんなっつの」
衝撃のご対面とお話を終えて、大輝と私は家までの道を歩いていた。
私の手はしっかりと大輝に握られている。
「…お前」
「え?」
「俺と一緒に住むの嫌なのかよ」
「へ?」
「何浮かねー顔してんだよ」
「浮かない顔なんじゃなくて、ただビックリしてるの!」
「はぁ?」
「ご両親にもう話してたとか。しかも高1の時からって…その時、離れ離れだったし…」
「余計な事考えてんじゃねーよ」
「余計!?」
「俺は今お前が俺と一緒に居たいか居たくねーか聞いてんだよ」
「っ」
「ま。俺は離す気ねーけど」
「だ、大輝っ」
握られていた手をぐっと引かれて立ち止まる。
大輝は手はそのままに身を屈めて、唇がギリギリ触れそうな距離で止まった。
びっくりしてぎゅっと目を瞑れば、すぐ近くでふっと笑う声が漏れる。
「な、何…」
「お前、それすげー可愛いんだけど」
「っはぁ!?」
「かはっ!も、一緒に住むの決定、拒否権ナシな!」
「はぁ…。もう…拒否なんかしないよ、バカ」
「おー、ったりめーだ」
「バカ大輝!ばーか、ばーか」
「あ?んだとコラ」
「バカバカ!好きだよ馬鹿!」
「バカ言い過ぎだろ」
「好きだよ、大好き!バカみたいに好き!」
「あー…俺も。すげー好き」
本当好き。
大好き。
私たちは同じ屋根の下で暮らす。
それはずっと前にもう経験してるはずなのに、なんだか凄く新鮮でこそばゆくて…
だけどこれからもずっと一緒に居たいって気持ちは何も変わらなくて…
こんな風にずっと大輝と歩いて行けたら、生きて行けたら幸せだなって思う。
私たちの幸せはまだ始まったばかり。
そう、止まる事なんて知らない。
「大輝はホントいつも強引なんだから」
「あ?そんな俺が好きなんだろ?」
「何その自信過剰」
「んだと?」
「嘘、大好き」
「…お前、マジそういうの止めろ、ここで襲うぞ」
「そういうバカなとこも好き」
「おー、そーかよ。じゃ大人しく食われるんだな」
「一緒に住んでからね〜」
「!言ったな?後悔すんなよ?」
「大輝と居て後悔した事なんか無いよ」
「もうお前マジなんなの」
「あはは!」
Over Time
END
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